「富岳」で新型コロナ飛沫の大量計算を実施、感染リスクはどこにある?:CAE最前線(2/3 ページ)
理化学研究所のスパコン「富岳」を用い、コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する飛沫の飛散シミュレーションが実施されている。理化学研究所が独自開発する流体シミュレーションソフトウェア「CUBE」による飛散シミュレーションの概要、注目すべき結果などについて、理化学研究所 計算科学研究センター チームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠氏に話を聞いた。
1mで急激にリスクが下がる、「ソーシャルディスタンス」は効果あり
シミュレーション結果については想定していたものも多いが、興味深かった結果の1つが、咳をした場合、1mを境に到達する飛沫量が急激に減ることだったという。その違いがはっきりと表れたのが、会食時のシミュレーションだ。
例えば、居酒屋では60cm四方のテーブルを並べて使用していることが多い。この場合、向かいの人の顔との距離は1mを切ってしまう。一方、このテーブルを2つ並べて4人が席に着いた場合、はす向かいの人との距離は1mを超える。咳の飛沫は直進性が強いため、基本的に顔を向けた方向に飛んでいくが、はす向かいの人は正面や横の人よりも、到達する飛沫数が大幅に減ったという。
1mで急に飛沫が落ちるのは、初速が毎秒3m程度の咳の飛沫は1m程度まで直進し、その後、空気と混ざって乱流拡散することによる。くしゃみだともう少し遠くまで到達し、気流や温度によっても変化するが、一定以上の距離を保つことはリスクを減らすのに非常に効果的であるといえる。「『ソーシャルディスタンス』といわれるが、根拠があることがよく分かった」(坪倉氏)。
「屋外なら安全」ではない、微風で飛沫到達量の増加も
漠然と屋外は安全だと思いマスクを外しがちだが、「安全とは限らない」という結果も得られた。特に屋外の飲食では開放的になりがちだが、屋外は風がなければ屋内と同じといえる。また、風が吹いていれば問題ないというわけでもない。強風であれば飛沫はすぐに拡散するが、毎秒0.5〜1.0m程度の微風が発話者(しゃべっている人)の背後から吹いた場合、正面だけでなくその周りにいる人への飛沫到達量も増えるという。
また、マスクは基本的に「人にうつさないためのものだ」といわれるが、他の人からの感染を防ぐ効果があることも確認された。飛沫が飛んできた場合の体内への到達量を調べてみると、マスクをしているとマスクがない場合の3分の1にまで飛沫の個数を抑えられることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.