ついに稼働「日の丸量子コンピュータ」、理研がクラウド経由で外部利用開始:量子コンピュータ
理化学研究所は2023年3月27日、超電導方式を採用した国産量子コンピュータ初号機による「量子計算クラウドサービス」を開始した。
理化学研究所(理研)は2023年3月27日、超電導方式を採用した国産量子コンピュータ初号機による「量子計算クラウドサービス」を開始した。理研と共同研究契約を締結したユーザーが、クラウドを介して量子コンピュータを利用できる。国内企業や研究機関による量子コンピュータ活用の普及が期待される。
現状、64量子ビット全ては動作せず
国産量子コンピュータ初号機は64量子ビットの集積回路チップを搭載する。2cm角のシリコンチップ上に4量子ビットを1単位とする16個の基本ユニットを、2次元に配置して形成した。また量子ビットをまたぐ形での配線を回避するため、配線を量子チップに対して垂直に結合させる「垂直配線パッケージ方式」を採用している。これらのシステム構成は高い拡張性を備えており、将来的に大規模化を図った場合にも基本設計を変えずに対応できる。
また、高精度かつ位相の安定化したマイクロ波パルスを生成する制御装置とソフトウェアも開発して実装した。マイクロ波は超電導方式において量子ビットを制御する役割を担う。開発時の目標と同程度の精度で制御できることを確認しているという。
量子ビットの理論上のコヒーレンス時間は、量子ビットが励起状態を保てるエネルギー緩和時間(T1)が最大40マイクロ秒、重ね合わせ状態の平均保持時間である位相緩和時間(T2)が最大60マイクロ秒。実際の動作時には、T1が10〜20マイクロ秒程度、T2が20〜40マイクロ秒程度であったとする。
同じく理論上では、読み出し忠実度(フィデリティ)は、単一事象読み出しでは0.99、初期化時では0.997、1量子ビットゲートでは0.9996、2量子ビットゲートでは0.991となっている。
なお今回量子コンピュータに搭載された64量子ビットの内、幾つかの量子ビットは現状では機能していない。実際には動作するのは53量子ビットに限られる。動作不良の原因はさまざまで、例えばある2つのユニットでは、希釈冷凍機内で量子ビットの信号を読み出すための増幅器が配線不良を起こしている可能性があるという。この他、隣接する量子ビット間で周波数がうまく制御できず、動作不良を起こしているものもある。また、動作している量子ビット間の接続でも、双方向でなく単方向にとどまるものが幾つか存在する。
まだ「スバルラインに乗ったくらい」
量子計算クラウドサービスにおいては、ユーザーはクラウドサーバを通じて量子コンピュータシステムにQSAMで記述したジョブを送信し、その結果を受け取れる。理研 量子コンピュータ研究センター センター長の中村泰信氏は「量子コンピューティングに興味を持つ、さまざまなバックグラウンドを持つ研究者や技術者が、自身のアイデアを試す場になればと思う。分野は限定しないが、化学分野の人はさまざまに活用できるのではないか」と語った。
クラウドサービスは理研の他、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTTからなる共同研究グループが開発した。特に、サービスのソフトウェア開発の面では大阪大学が主要な役割を担った。
理研では国産量子コンピュータ初号機の公開後も、利用環境の整備や拡大に努め、運用の利便性向上を目指す。また、理研の「量子コンピュータ研究センター」内に設置されている「理研RQC-富士通連携センター」において、2023年度に実機を公開する予定だ。大規模化に向けたハードウェア/ソフトウェア技術開発に加えて、実機を活用することでエンドユーザーを巻き込んだアプリケーション開発を進める。人材育成のプラットフォームとしても活用する。古典コンピュータとのハイブリッド活用に関しては、HPC技術と融合させて計算可能な領域を拡大する他、誤り耐性量子計算技術の高度化も目指す。
中村氏は1999年に世界で初めて超電導量子ビット素子を開発した人物だ。同氏は量子コンピュータ開発の歩みを振り返り、「1999年は量子状態を保てる時間が1ナノ秒程度しかなく、今から考えると非常に短かった。当時から見ると、今の技術発展は想像以上だ」と語った。一方で、現在の開発状況の進展度合いについては、「富士山で言えばスバルラインに乗ったくらいだ。大規模な量子コンピュータを開発するのはチャレンジングで、長い取り組みが必要になる」と述べた。
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