ナノ秒近辺での原子、分子運動を観測する放射光X線分光型測定技術を開発:研究開発の最前線
東北大学らは、ナノ秒近辺での原子、分子運動を観測する放射光X線分光型測定技術を開発した。次世代2次元X線カメラを使用すれば、動いているものの時間スケールだけでなく、空間的な大きさも同時に測定できる。
東北大学は2024年6月14日、ナノ秒近辺での原子、分子運動を観測する放射光X線分光型測定技術を開発したと発表した。理化学研究所、高輝度光科学研究センター、住友ゴム工業との共同研究による成果だ。
同技術では、大型放射光施設「SPring-8」で、核モノクロメーターと分光器を使用し、X線領域でくし型のスペクトル構造を創出した。これにより新しい測定系が、くしの歯(波長)の幅から決まる時間分解能と、くし(構造)全体の幅から決まる時間分解能の2つの分解能を持つことが分かった。2つの分解能を持つ同技術を用いることで、0.1〜100ナノ秒の時間領域で、原子、分子運動を効率的、高精度に測定可能となった。
さらに、次世代2次元X線カメラ「CITIUS」を使用すれば、動いているものの時間スケールだけでなく、空間的な大きさも同時に測定できる。
同技術をゴム材料に適用した実証では、0.1〜100ナノ秒の時間領域で、ゴム中の分子鎖の運動を測定することに成功。従来の手法よりも、100倍高効率に測定できることを示した。
同技術は、測定対象の制限が少なく、内部まで非破壊で観測できる。ゴム以外の電池や金属、ガラス、液晶、化粧品などさまざまな材料や、生体モデル系に適用できると見込まれる。
なお同研究は、科学技術振興機構(JST)が主導する戦略的創造研究推進事業「CREST」と、理化学研究所のSACLA/SPring-8基盤開発プログラムの一環として進められた。
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