アミロイドβの悪玉化機構を解明、アルツハイマー病の新規創薬へ:医療技術ニュース
理化学研究所らは、アルツハイマー病患者の脳内において、アミロイドβが、分解されにくい悪玉アミロイドβへと変化する仕組みを解明した。アルツハイマー病の予防や治療に関する新しい薬剤の開発が期待される。
理化学研究所は2024年10月11日、アルツハイマー病(AD)患者の脳内でアミロイドベータ(Aβ)が、分解されにくい悪玉Aβに変化する仕組みを解明したと発表した。長崎大学らとの国際共同研究による成果だ。
ADは、脳内に大量に蓄積したAβによって脳の神経細胞が正常に機能しなくなり、認知機能や記憶能力が障害を受ける疾患だ。Aβは正常な脳でも作られ(生理的Aβ)、通常はネプリライシンによって分解除去されるが、AD患者の脳ではネプリライシンを作り出す力が極端に弱くなるため、Aβが壊れず正常の老化状態を超えて蓄積されてしまう。
AD患者の脳に蓄積してアミロイド斑を作るAβのほとんどは悪玉Aβで、ピログルAβと呼ばれる。ピログルAβについては、早期AD治療薬の抗体医薬として日本でも認可されたドナネマブの標的Aβとして知られるようになるなど、研究が進んでいるが、Aβから悪玉Aβに変化する仕組みや、脳内で蓄積していく過程は明らかになっていなかった。
今回の研究では、ネプリライシンを働かないようにしたADのモデルマウスを使用した。同マウスを調べると、ネプリライシンの代わりに別の酵素エキソペプチダーゼが増えて、Aβを分解するようになった。しかし、分解の過程でグルタミン酸環化酵素がAβに飾りを付け(ピログルタミル化)、その飾りが分解を阻止するため、悪玉Aβとなって蓄積していくことが分かった。
また、ADの画像診断で用いられるピッツバーグ化合物B(PiB)で、ADモデルマウスのアミロイドイメージングを試みたところ、PiBシグナルは、ピログルAβ量の増加と一致し、マウスの月齢経過とともに増加していた。これにより、PiBプローブでピログルAβの増加や脳内のネプリライシン量の変化を把握できることが確認された。
続いて、ネプリライシンの代わりにAβの分解を補償するエキソペプチダーゼの働きから、アミノペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼ、グルタミン酸環化酵素に注目し、Aβと反応させた。
その結果、ネプリライシンを働かないようにしたADモデルマウスにおいて、アミノペプチダーゼとジペプチジルペプチダーゼの発現量が、マウスの月齢依存的に増加した。グルタミン酸環化酵素については、1つの類似タンパク質の発現量が増加する一方で、ピログルタミル化したグルタミン酸残基をペプチドから外すアミノペプチダーゼの発現量が低下していた。
ネプリライシンの機能低下による二次的なAβ分解経路構成酵素群の誘導。APA:アミノペプチダーゼA、APN:アミノペプチダーゼN、DPP4:ジペプチジルペプチダーゼ4、QPCT:グルタミン酸環化酵素、QPCTL:グルタミン酸環化酵素様タンパク質[クリックで拡大] 出所:理化学研究所
ドナネマブは、既に脳に蓄積しているピログルAβを標的とするが、Aβの分解経路を構成する酵素群が確認されたことで、ピログルAβ化を事前に防げる可能性がある。また、ピログルAβ化に関わる酵素の働きを抑える薬が開発されることで、新しいアルツハイマー病の予防や治療につながることが期待される。
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