ISO/ASTM 52920の要求事項と準拠のチェック〜何が書かれていて、どう監査するのか:AMの品質保証とISO/ASTM 52920(7)(2/2 ページ)
本連載では、AM(Additive Manufacturing)における品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、規格には実際にどのようなことが書いてあるのかなどを見ていく。
要求事項に業務を準拠させるための読み方
ここでの要求事項は「指示を確立すること」ですから、まずは該当の「原材料管理の指示」が存在するかどうかを確認してみましょう。
原材料の管理について、普段どのように業務を行っているかを考えてみます。手順書や管理マニュアルのような明示された決まりがなくとも、「原材料が納入されたら、保管庫にしまう」「入庫した原材料の種類と数量を台帳に記入する」など、なんらかの手順や注意事項などが担当者の頭の中にあることが多いのではないでしょうか。
まずは、それを書き出して明示されたルールが「存在する」状態にしてみましょう。次に、そのルールについて要求事項を追加していきます。
そのルールは「原材料が定義された仕様を満た...されるようにするための指示」を含む必要がありますので、発注した原材料仕様と原材料メーカーの出荷検査表との突き合わせや、受入検査の実施など、必要なルールを追加していきます。
ここで、原材料の「仕様の定義」がそもそもない!というような場合は、「定義された仕様」を満たしていることを確認するわけですから、原材料仕様の定義からする必要が出てきます。
次は、ラベル付け(識別)のルールですね。社内のロットナンバーについて、発行や、原材料をリサイクルした場合などのルールと、容器や台帳にどのように表示するかなどを決めていくことになります。
ラベル付けのルールを仮決めしたら「トレーサビリティーを確保するために」という視点でチェックしてみましょう。例えばある造形品が、お客さまのところで不具合が発生し、原材料に問題があったと仮定して、いつの時点で不具合のタネが発生したか追跡することができるか、など具体的な問題を想定して考えてみると分かりやすいと思います。
認証取得の際の監査はどのように実施されるか
私たち監査員が認証のために監査する場合も基本的には、先ほどと同じようにチェックしていきます。チェックするのは全ての要求事項です。
ちなみに、私が数えたところ、ISO/ASTM 52920:2023の要求事項は156個でした。該当のプロセスがない場合もあると思いますが、かなりの数ですね。
監査では、まず要求事項に対応するプロセス/ルールが存在するかをチェックします。先ほどの場合なら「原材料マネジメントは、どのようにされていますか。全体の流れの説明をお願いします」というようなところから始めるでしょうか。
もし、ルール自体が(頭の中にも)存在しないならばその要求事項については不適合と判断します。ルールの一部が存在しなかったり、存在するが明示されてなかったりという場合は、要求事項や品質に対する影響にもよりますが、軽微な不適合や、改善の機会として指摘することになるでしょう。
存在するのであれば、前述のように要求事項の中身に漏れなく適合しているかをチェックします。監査を受ける側からすればいじわるに感じるかもしれませんが、「例えばこんな場合にこんなことが起きたら、不具合の発生を防止できますか」とか「例えばこんな不具合の場合は、次の工程に流出しちゃいませんか」というような質問をすることもよくあります。
このようなやりとりの中で、皆さまの業界や業務の個別の事情などを伺い、そのプロセスが少なくとも52920に準拠しつつ、さらにやりやすくなるような方法について話し合いながらチェックを進めていきます。
以上のような流れで、実際の文書や現場を監査証拠として、全ての要求事項についてチェックが終わったら、各要求事項について「適合」「適合だが改善の機会がある」「不適合(重大・軽微)」の判断をします。不適合については是正処置の実施や計画を確認し、認証登録に問題ない、となれば監査員から認証書発行部門に報告を行い、認証書発行となります。
ここまで52920の要求事項を読み、実際の業務に適用し、規格の準拠を監査で確認する、という全体の流れの概略を説明しました。かなりざっくりとした説明でしたが、実際はAM量産品質保証に向けて、1年前後の時間をかけて取り組むことが多いようです(規格の理解、自社プロセスへの適用、準拠の確認、監査、認証などについて参考情報はこちら/テュフズード AMトップ)。
今回は、52920の要求事項の例と、その要求事項を実務でどう準拠していくか、規格への準拠をどのように監査するか、を見てきました。
第8回の次回はいよいよ連載最終回です。第1回から第7回で見てきた「AMの品質保証とISO/ASTM 52920」について振り返りたいと思います。
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