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品質保証とは何か、その定義を改めて考えるAMの品質保証とISO/ASTM 52920(1)(1/2 ページ)

本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、品質保証とは何かを改めて考える。

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 品質保証は製造業において重要な要素です。近年、Additive Manufacturing(AM、3Dプリンティング技術)の普及が進み、量産への活用が始まったことにより、AMにおいても品質保証の重要性が高まっています。

 AMは従来の製造プロセスとは異なる方法で製品を生産します。その結果、品質保証のアプローチも従来製法と異なり、新たな課題に直面しています。本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格 ISO/ASTM 52920について解説していきます。

⇒「AMの品質保証とISO/ASTM 52920」のバックナンバーはこちら

はじめに

 筆者の所属するテュフズードはドイツ発祥の第三者認証機関です。第三者認証機関とは、組織やプロセス、製品などが、規格や法律などの何らかの基準に準拠しているかを監査、試験し、認証を与えることができる機関です。

 テュフズードのAMの代表的なサービスは、AM製造プロセスが国際規格に準拠しているかどうかを監査し、認証するAM製造サイト認証です。また、AM製造プロセスを構築するにあたり、関連の国際規格の理解を深めるための研修、製造プロセス構築のための支援サービスも提供しています。

 筆者はテュフズードで主任監査員として、AMの工場を訪問しAMの製造環境と工程が品質保証できる状態であるかどうかを、国際規格に基づいてチェックする仕事をしています。

 つまり、世の中にはAMの品質保証の実務のやり方と出来栄えを評価するための具体策を標準化した国際規格が既に存在しているということになります。

 そこで本連載では、国際規格を根拠とした解説に努め、以下のようなトピックについて解説します。皆さんのAMの品質保証の問題解決・課題達成にお役に立てれば幸いです。

連載トピック

  • 品質保証
  • AMの品質保証
  • AM品質保証の規格 ISO/ASTM 52920

 今回は1つ目のトピック「品質保証」についてです。そもそも品質保証とは何か、品質保証の定義を考えていきましょう。

品質保証とは

 AMの品質保証の前に、まずはここでいう「品質保証」の定義を考えていきましょう。品質保証、という言葉は「品質」と「保証」と二つの言葉で構成されています。

「品質」とは

 「品質」とはお客さまの期待に対する実現度、満足度です。

 皆さんは「品質が良い、悪い」「品質が高い、低い」をどのような尺度で使っていますか。

 例えば、金属の丸棒を2つの加工メーカーに渡して「100mmの長さに切ってください」と依頼したとしましょう。

 加工メーカーAは出来上がり寸法が100.28mm、円筒外周は材料ママでした。加工メーカーBは出来上がり寸法が100.03mm、外周は鏡面仕上げでした。このような場合、A社は品質が悪い、B社は品質が良い、あるいはB社はA社より品質が高い、といいがちですが、ここでの定義に従うと誤りです。

 品質の尺度は、品質要求を満足しているか、満足していないかです。

 先ほどの例では品質要求は「金属の丸棒を切削加工で100mmの長さに切る」ことで、切断長さに特段の許容差を指定していません。金属材料の削り加工の一般許容差(JISB0405-1991)を適用して、100mm±0.3が要求事項というのが妥当でしょう。外周部の加工は要求事項には入っていません。

 すると、この場合A社もB社も「品質要求を満足している」となり、両者の品質に優劣はありません。むしろ、同じ品質でB社の方が(加工時間が多い分)価格が高い、プロセスの適正化ができていない、と判断することもあるでしょう。

 また、品質の良しあしは品質の一貫性、再現性にも大きく影響されます。

 ペン1本に対する品質要求は「書ければいいや」かもしれませんが、10本のペンを購入した場合、「10本の購入」に対する要求事項は「10本とも書ける」です。10本買ったペンのうち、何本かが書けなかったら「品質が一貫していない=品質が低い」となります。

 工業用の大量の注文、例えばネジ1万本のような発注では、「1万本使えること」という品質要求を満足するために、不良品の発生を想定して多めに納品することで要求品質を満足させることもあります。

「保証」とは

 「保証」とは、前もって間違いない、大丈夫だと認め、請け合うこと、責任を持つことです。

 前もって、というのが「補償」との大きな違いでもあります。家電製品などを購入すると付いてくる保証書には3年間保証します、などと書かれています。これはあなたがその製品を買う前に、前もって「3年間は壊れないと請け合いますよ」ということです。

 八百屋さんに行ったとしましょう。スイカがたくさん並んでいます。「うちのスイカはどれも甘いですよ!保証しますよ!」。「甘いことを保証しますよ」という文句は、あなたが購入して食べる前に、甘いことを認め責任を持つということです。もし、スイカが甘くなかったら。保証の契約に応じて責任を取ることになります。返金や交換、損害に対する補償などです。

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