京都のお寺でサーキュラーエコノミーを語る、パナソニックがデザインイベント開催:デザインの力(2/2 ページ)
パナソニック デザイン本部は、京都の両足院で、サーキュラーエコノミーを考えるイベント「→使い続ける展 2024/MUGE」を開催し、資源循環と利便性を両立するデザインの在り方について意見交換を行っている。
「→使い続ける展 2024/MUGE」での展示例
今回開催した「→使い続ける展 2024/MUGE」は禅の言葉である「融通無碍(ゆうずうむげ)」を引用し、「使い続ける」ための人と家電の関係性を見直し、そこで生まれる新しいかたちを提案した。
自由に組み立てられる空間オーディオ「響」
製品に自分で手を入れ長く使い続けるというコンセプトでアーキタイプ(原型)として出展したのが「響(きょう)」だ。これは、自分で自由に組み立てられる空間オーディオのコンセプトである。建築の古材や欠損のある木材から再生した木をパネル状にして音を広げる役割を担わせている。会場では、6つのスピーカーを用意し、風や水など自然の環境音などを流している。
接着剤やくぎを使っていないため、簡単に分解でき、修理やアップデートを気軽に行うことができるようにしている。それにより、求める音のイメージや使いたい素材、木の種類によるにおいなどを自由にカスタマイズして使用し、製品に手を入れて工夫しながら長く使える製品像を示している。山本氏は「ユーザーが自分で組み立てられることで製品の構造を理解し、修理やアップデートがより身近になるということを意図している」と述べている。
自由に組み替えられる冷蔵保管庫「雲」
同様にユーザーが自分の手で自由に組み合わせを変えられる価値を示したのが、モジュール式パントリーのアーキタイプ「雲(うん)」だ。野菜や果物、調味料など、それぞれの保管に最適な温度は異なる。冷蔵庫や冷凍庫は大きな1つの箱として決まった温度での保管を行うが、これらをモジュール型ボックスとして小分けし、設定温度なども自由に設定できることで、新たな使い方が広がるのではないかという提案である。
「環境のことを考えると断熱などをより大きな箱でまとめて行う冷凍冷蔵庫の方が効率が良いのは明らかだが、用途によってはより小さい単位で最適な温度環境などを組み合わせて保管したいニーズもあるはず。どういう形が最適なのか、どういうものであれば受け入れられるのか意見を聞きたい」と山本氏は語る。
フィルターを外に出す発想の「泉」
空気清浄機やエアコンのようにフィルターを機器内部に収めるのではなく、フィルターを外部に出し、そこを通る風を直接的に価値として示すコンセプトが「泉(せん)」だ。緑茶カテキン繊維や光触媒繊維など、さまざまなファブリックから必要な機能のものを選び、自由にカスタマイズできる。ファブリックは家庭の洗濯機で洗うことができるため、手入れにより使い続けることができる。
「空気清浄機やエアコンでは機器の中にフィルターを収めていたが、それによりフィルターの手入れが面倒に感じて、衛生面で問題などを引き起こしていた。フィルターを外に出し、そこにファンなどで空気の流れを作ることで、ユーザーが気軽に手入れできるようになり、新たな製品の形を生み出すことができる」と山本氏は述べている。
梱包材の概念を変える「寿」
捨てずに何度も使えるパッケージのコンセプトが「寿(じゅ)」だ。製品が送られてきたときの梱包材が、家の中で製品と共に使われ、ユーザーが製品を送り返すときにはまた梱包材として使用する現代の「通い箱」を目指す。四角い箱だけでなく、筒状や布状など、中に入れるものの形状やサイズに合わせて包み方を選べるようにする。
リサイクルを概念的に示した「露」
リサイクルを概念的に示したコンセプト展示が「露(ろ)」だ。再生素材が時と共に形を変え、次の製品につながる様子を、スピーカーとその上に乗せた砂粒状のガラス素材の形状の変化で示している。
山本氏は「実用製品としてはまだ遠い展示も多いが、サーキュラーエコノミーを成立させられる製品の形として、コンセプトを示していくことで、意見をもらいながら、技術的な検討の起点とする他、外部ネットワーク構築を進めていく」と語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 環境を切り口に“売った後に価値が上がるモノづくり”に挑戦するパナソニックHD
2022年に環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を発表し着実にアクションをとり続けているのがパナソニックグループだ。同社グループの環境問題についての考え方や取り組みについて、パナソニック ホールディングスのグループCTOである小川立夫氏に話を聞いた。 - パナソニックが挑むデザインによる変革、カギは「日本らしさ」と失敗の量
家電の会社から「暮らしアップデート業」へと変革を進めるパナソニック。その中で新たな価値づくりの1つの重要な切り口と位置付けているのが「デザイン」である。新たにパナソニック全社のデザイン部門を統括するパナソニック デザイン戦略室 室長に就任した臼井重雄氏に、パナソニックが取り組むデザインによる変革のついて聞いた。 - なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は、これまであまり注目されてこなかったB2B製品におけるデザインに着目し、その効果や重要性、そして競争優位性向上のためのデザイン戦略について解説する。 - イノベーションを生み出す「デザイン思考」とは
現在、日本の製造業で求めらているイノベーションを生み出す上で重要な役割を果たすといわれているのが「デザイン思考」だ。本稿では、デザイン思考が求められている理由、デザイン思考の歴史、デザイン思考と従来型の思考との違いについて解説する。 - 「デザイン思考でデジタル変革する」って何するの? 最初の一歩とは
IoTやAIなどの先進デジタル技術を活用し、業務プロセスやビジネスモデル変革を行う「デジタル変革」の動きが加速。この動きの入り口としてデジタル変革ワークショップなどの開催も広がっている。しかし、実際に「ワークショップが何になるのか」はまだまだ見えにくい。そこで、本稿ではこうした取り組みを進める富士通の「FUJITSU Digital Transformation Center」でのワークショップの内容を通じ、製造業の取り組みにどう役立つのかを紹介する。 - デライトデザインとは? 3つのデザイン、類似の考え方を通して読み解く
「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。