データ主権を守りながら共有していく、IDSAとは?:加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(3)(6/6 ページ)
本連載では、「加速するデータ共有圏:Catena-XやManufacturing-Xなどの最新動向と日本への産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏の動向やインパクト、IDSA、GAIA-X、Catena-X、Manufacturing-Xなどの鍵となる取り組みを解説していく。今回は第3回としてIDSAを紹介する。
ユースケース:医療や生活、教育などパーソナルデータにおけるデータ連携
医療やヘルスケアにおいてはデータ連携を通じた効率的な医療や、治療法の開発などが期待されていたが個人情報の壁もあり進みづらい状況にあったが、GDPR(General Data Protection Regulation、欧州の一般データ保護規則)に準拠した形で健康データや患者データなどを連携。治療法や医療/ヘルスケアサービスの創出につなげるプロジェクトが複数展開されている。また、医療にとどまらない例として、欧州においてはパーソナルデータの連携や、データマーケットプレースの取り組みも広範囲に進んでいることも特徴である。
GDPRという厳しい規制が存在しているが、そのGDPRに準拠した形でのデータ連携や、それを通じた新たなビジネス創出に取り組まれている。先述のスマートシティーにおけるユースケースにおいても、ヘルシンキなどでは教育データや納税データなどの個人情報を連携した行政サービスも生まれている。
ユースケース:農業や林業、酪農などにおけるデータ連携
農業分野をはじめとする1次産業においてもデータ連携が進みつつある。農家を含む各プレイヤーのデータ連携を通じて、生産プロセスにおけるカーボンフットプリントを可視化することや、トレーサビリティーの確保、管理の最適化などが行われている。
また、農業分野では精密農業に向けたデータ連携を活用して異種の複数ロボットを管理するロボットプラットフォームの検討も行われている。データ連携を通じた複数ロボットの管理やオペレーション最適化などは農業に限らず他分野にも横展開が期待される領域だ。
ユースケース:ドメイン横断のデータ連携
各領域をつなぎ合わせたデータ連携を行う上で、ドメイン横断での取り組みも展開されている。ドイツテレコムや、ADVANEO、Sovityなどの個別企業がソリューションとして企業のデータ連携を支えるソリューションやプラットフォームを展開。研究開発段階から企業の戦略に組み込まれ、社会実装に向かいつつあることを示している。
→連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」バックナンバー
筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
- 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業でデータ共有圏が広がる背景と、データ共有のインパクト
本連載では「加速するデータ共有圏(Data space):Catena-XやManufacturing-Xなどの最新動向と日本への産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏の動向やインパクトを解説していく。今回はデータを共有することのインパクトを紹介する。 - 欧州の自動車産業が始めるデータ共有、「Catena-X」とは?
コロナ禍で見つかった課題や将来を見据えて動き出した「Catena-X」。これに込めた思いや狙いについて聞いた。 - 自動車業界10社の合弁会社「Cofinity-X」、Catena-Xの普及を促進
自動車業界の10社が設立した共同出資会社Cofinity-Xが、世界最大級の産業見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)」に出展。「Catena-X」の普及を促進する同社サービスのユースケースを紹介している。 - 製造業DXで日本が欧州から学ぶべき点、学ばなくてもよい点は何か
製造業のDXは広がりを見せているが、日本企業の取り組みは部分的で、ビジネスモデル変革など企業全体の価値につながっていないと指摘されている。製造業のDXに幅広く携わり、2023年12月に著書「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト/アルファコンパス 代表の福本勲氏に話を聞いた。 - 製造業の「データ共有圏」、2023年の最新動向と5つのポイント
本連載では、「加速するデータ共有圏(Data space):Catena-XやManufacturing-Xなどの最新動向と日本への産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏の動向やインパクト、IDSA、GAIA-X、Catena-X、Manufacturing-Xなどの鍵となる取り組みを解説していく。 - 産業メタバースで変わりゆく都市づくり、進むスマートシティ構築の未来(前編)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。 - 産業メタバースで変わりゆく都市づくり、進むスマートシティ構築の未来(後編)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。