製造業DXで日本が欧州から学ぶべき点、学ばなくてもよい点は何か:製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)
製造業のDXは広がりを見せているが、日本企業の取り組みは部分的で、ビジネスモデル変革など企業全体の価値につながっていないと指摘されている。製造業のDXに幅広く携わり、2023年12月に著書「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト/アルファコンパス 代表の福本勲氏に話を聞いた。
DX(デジタルトランスフォーメーション)があらゆる産業で大きな関心を集めている。ただ、日本の製造業のDXへの取り組みは、部門や工程の中の効率化にとどまり、企業全体や企業間、業界全体のような幅広いプロセス改革や新価値創造につながっていない点などが問題点として指摘されている。こうした中で日本の製造業は、どういうことを考え、どういう視点で取り組む必要があるのだろうか。
インダストリー4.0の動向など製造業のDXに幅広い知見を持ち、新たに2023年12月に著書「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト/アルファコンパス 代表の福本勲氏に、欧州の動向と日本の製造業の進むべき道について話を聞いた。
デジタルエコノミーの確立に向け着実に歩みを示す欧州
MONOist 日本の製造業でもDXへの取り組みも進んできていると思いますが、欧州などの状況を見るとまだ足りないと考えますか。
福本氏 インダストリー4.0などの動きは日本でも大きな注目を集めたが、工場の中だけのことで矮小化されて取り組まれてきた。インダストリー4.0の提唱者であるヘニング・カガーマン(Henning Kagermann)氏は最初からデジタルエンタープライズやデジタルエコノミーを目指すとしており、デジタルの力を使ってもっと幅広い業界や世界を結んでいくビジョンを示していた。欧州ではこうしたビジョンの基に着実に歩みを進めており、日本の部分的で分断された取り組みについて懸念を持っている。
特に私が個人的に危機感を持ったのが、ドイツの自動車メーカーやSAP、Siemensなどが作った共同出資会社「Cofinity-X」の存在だ。Cofinity-Xは、2023年2月に自動車業界でのCatena-Xの普及促進のため設立され、自動車バリューチェーン全体でデータを安全にやりとりするためのアプリケーション/サービスの提供を目的としている。具体的には、アプリケーション用のオープンマーケットプレースの運営や、エコシステム内のデータ連携に必要なツールの提供なども行うとしており、Catena-Xで示されたコンセプトを具体的にビジネスとして展開するための動きだ。
iPhoneのApp Storeのように、自動車のサプライチェーンで使用する情報に関連するアプリを自由に流通できるようにすることで、関わる企業に実利を生むことができるだけではなく、サービスのホワイトスペースなどを把握することもできる。このように、ドイツやEUでは、デジタルエコノミーを実現するために必要な仕組みや組織などの用意を進めており、着実な歩みを見せている。
また、こうした動きが進められる理由として、役割分担がきっちりしていることがある。日本ではルール決めから仕組み作り、ビジネスまで「言い出したところが最後までやる」というような機運がある。そのため、最終的なビジネスとしての落としどころから逆算しないと動きが作れずに矮小化し、幅広い企業や業界を巻き込んだ仕組み作りに発展しにくい。欧州では、例えばCatena-XやManufacturing-Xなどは共通基盤でルールを決めるところで、先述したようなCofinity-Xが実際にビジネスとして進めるところ、というように役割が明確に分かれているので、より大きなビジョンで物事が進められる。
日本は人口減少もあり世界的に見て市場価値がどんどん小さくなってきている。今存在する製造業も生き残っていくためにはグローバルサプライチェーンに出ていくことがより求められている。その中で、市場が小さくなる日本のルールを押し出しても通らないことも増えてくる。そのため、こうした欧州などで進むルール決めや、共通基盤構築の動きにより積極的に参加し、意見をぶつけていかなければならない。欧州で現在進んでいるデジタルプロダクトパスポートのように、デジタルトレーサビリティーを求める動きも進んでおり、共通基盤はそのために活用が検討されていることを考えると、これらの場にも積極的に出ないといけないと考えている。
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