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製造業DXで日本が欧州から学ぶべき点、学ばなくてもよい点は何か製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)

製造業のDXは広がりを見せているが、日本企業の取り組みは部分的で、ビジネスモデル変革など企業全体の価値につながっていないと指摘されている。製造業のDXに幅広く携わり、2023年12月に著書「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト/アルファコンパス 代表の福本勲氏に話を聞いた。

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ルールメイキングの場で“違いを認知させる”重要性

MONOist 製造業として“勝ち残る”ことを考えると、欧州が決めるルールに単純に乗ってしまってよいのかという意見もありますが、その点はどう考えますか。

福本氏 そのまま受け入れるということではなく、ルールメイキングの場に出て行き、日本の立場で積極的に意見を出すことが重要だ。例えば、GAIA-Xなどに対しても、米国の大手ITプラットフォーマーはみんな参加しており、その中で自社の利点にもつながるような意見を出している。日本でも一部企業の参加はあるが、情報を取るために参加しているという企業も多く、日本の姿勢を明確に示すような意見が少ない状況だ。

 日本ではすぐにこうした議論の場で白黒はっきりつけることを求める場合が多く議論も勝った負けたという話になりがちだが議論の目的はそうではない。欧州も決して一枚岩ではなく、EU内も国ごとにバラバラで、積極的なドイツ内でも各業界団体や関係企業などでも意見はバラバラだったりする。しかし、その中でも意見を言い合うことで、それぞれの違いや立場を理解することができ、それを基に全体をまとめるようなルールを作ることができる。つまり違いを明確化するためにも議論に参加しないといけないということだ。

 欧州のルールに一方的に乗る必要はないが欧州との取引を考えると、ルール作りの場に意見を言う必要や、日本で既に進んでいる取り組みなどがあれば、それを認めさせて整合性を取るような動きは必要になる。そういう意味で、先述したようなCatena-XやManufacturing-Xなどの場にも積極的に参加するべきだと考えている。

DXは「誰もノーと言わないところ」から進める

MONOist DXによる企業間の連携や業界間の連携などを進めていこうとしても、企業競争力の面での情報開示のリスクなどから、なかなか安易にデータ開示などができない場合も多いと思います。その点でどこから進めていけばよいと考えますか。

福本氏 インダストリー4.0などでも議論になっていたが、情報をオープンで開示するとして、コアコンピタンスとなる工場や製品の情報を詳細に出していくことは難しい。これは日本だけでなく、欧州でも同様で、企業競争力に直結し開示するメリットがないような情報は個々で制限を掛けている。

 では、どこから進めればよいのかというと「誰もノーと言わないところ」から行うべきだ。例えば、グリーンやサステナビリティーのような今までそれほど活用されていなかった情報を、サプライチェーンで共有するような動きに対し、反対する人は少ない。DXを企業間や業界間で進めていくためには、反対する人が少ない新たな領域で進めていくことがポイントになるだろう。

 例えば、Siemensは2022年にCO2排出量などの気候関連データをサプライチェーン全体で共有するためのグローバルな非営利団体「Estainium協会」を立ち上げているが、これも誰もノーと言わないところから進める姿勢が出たものだろう。そういうところを探して進めていくことが重要だ。

モノづくりの強みをデジタルに最適な形で

MONOist 国際的なルール策定が進む中で、日本企業の勝ち筋をどう見ればよいのでしょうか。

福本氏 日本はモノ(ハードウェア)を組み合わせて作るところは得意で、製造工程におけるデータの粒度などを見ても、非常に優れていることが分かる。ただ、これからは、ハードウェアだけの製品はどんどん少なくなり、ソフトウェアがもたらす製品価値が大きくなる。そうなるとハードウェアのすり合わせだけが優れていても、製品価値は維持できない。設計段階で、ハードウェアとソフトウェアをすり合わせていく必要がある。フロントローディング化を進めデジタル設計領域で、従来のすり合わせに近いことを行えるようにする必要がある。

 そこで従来培ってきたモノづくりのノウハウは生かせるはずだ。例えば、今生成AIが注目を集めているが、その中で求める答えを出すにはプロンプトが重要になる。プロンプトが何かというとそれは暗黙のノウハウを形式知化したものであり、デジタル設計環境にフロントローディング化が進んだとしても、モノづくりのノウハウもこうした形で生かせるはずだ。

 さらにいうと、目指すべきところは、三現主義(現地、現物、現実)のデジタル化だ。さまざまな業務のデジタルツイン化で、デジタル空間上のシミュレーションの結果を現実世界にフィードバックする世界だ。得られたデータについては過去のものだが、シミュレーションを常時行うことで未来を常時予測することができる。こうした取り組みは、現実の世界で匠のノウハウの中で行われてきたことだ。難しく考えることはなく、今までの強みをデジタルの強みを組み合わせると何ができるのかを考えると勝ち筋は自然に見えてくる。高い品質でより安い製品を生み出してきた日本のモノづくりの力はいまだに世界有数のものがあり、それをデジタルの力でどうブラッシュアップするかという発想が重要だ。

 ただ、ここでいう“今の強みを”ということだが、現在の業務を何も変えずにそのままデジタル化するということではない。デジタル技術でできることとフィジカルでできることを改めて照らし合わせて考え、最も効率的な姿を考え直すということになる。従来は匠の手作業で現場のさまざまな変化に対応できていたことも、人手不足が深刻化する中、機械による自動化を進める必要が出てきている。自動化しやすい仕組みやデジタル技術を生かしやすい仕組みを組み合わせて考えることで、デジタル時代の新たなモノづくりの姿を生み出すことができる。そういう新たな形を見つけ出すことで、世界に先駆けることができると考えている。

インタビュイー紹介:

福本勲(ふくもと いさお)氏 
東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表

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 1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はデジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担う。2020年にアルファコンパスを設立し、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション支援などを行っている。その他、複数の団体で委員などを務めている。2019年12月にフロンティアワン 鍋野敬一郎氏、電通国際情報サービス 幸坂知樹氏との共著で「デジタルファースト・ソサエティ」を出版。2023年12月に初の単著「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」を出版している。


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