IoTを革新するマイクロ波給電、東芝が5.7GHz帯の事業化で協業を推進:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
IoTデバイスの普及で大きな課題になるのが電力供給である。その有力な手段として検討が進む「マイクロ波給電」で5.7GHz帯に絞って開発を進めているのが東芝だ。同社はTOPPANグループ傘下のアイオイ・システムとの共同開発成果として、「国際物流総合展2024」でデモ展示を行う予定だ。
デジタルピッキングシステムの表示器の電池交換が不要に
今回の共同開発パートナーとなるアイオイ・システムは、物流倉庫内でのピッキング作業の効率化を可能にするデジタルピッキングシステムを手掛けている。デジタルピッキングシステムでは、工場や物流倉庫の作業者が、表示器のランプが光った場所に足を運んで表示された数だけ商品を取り出すことで、正確かつスピーディーなピッキング作業が可能になる。
デジタルピッキングシステムの表示器は商品ごとに多数設置されているが、その電源として用いられているのは電池である。24時間稼働する物流倉庫の場合、表示器の電池切れによるダウンタイムや電池交換の作業は、デジタルピッキングシステムの効率化を阻害する大きな要因になっていた。
今回の共同開発では、東芝のマイクロ波給電技術を用いてデジタルピッキングシステムの全ての表示器が一定以上の電池残量をキープできることを目指した。電池残量の把握については東芝インフラシステムズの独自技術を適用しており、東芝のマイクロ波給電技術の最適時分割給電を活用して短時間で給電を完了するような最適化を施した。
2023年8月に東芝インフラシステムズとアイオイ・システムで行った実証では、送電機から35台の表示器に対して最適な無線給電が行えたことを確認している。なお、送電機については、固定したアンテナからビームフォーミングによって給電ビームを送るビームフォーミング型ではなく、給電ビームを送る方向にアンテナを機械的に向けるメカニカル型を採用した。「今回は開発したのはデモ機であり、低コストで構築することが目的だったため、メカニカル型の送電機を採用した」(東芝インフラシステムズ)という。
なお、国際物流総合展2024でのデモ展示は、メカニカル型の送電機と10台ほどの表示器を用いて行う予定である。
東芝インフラシステムズは今回の展示を契機に、アイオイ・システムをはじめTOPPANグループとの協業を深めながら、総務省による第2ステップの法改正で屋外利用や有人環境での利用が可能になることが見込まれている2025年度の事業化を目指して商品開発を進めていく方針だ。また、総務省の第2ステップの法改正では、より大電力の無線給電が可能になる24GHz帯まで使用周波数を広げる方針であり、現在の5.7GHz帯の技術を活用して24GHz帯のマイクロ波給電技術の開発にも取り組む計画である。
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