東芝が5.7GHz帯マイクロ波給電システムを改良、5GHz帯Wi-Fiとの共存も可能に:組み込み開発ニュース
東芝が5GHz帯の無線LANと共存するマイクロ波遠隔給電システムを開発したと発表。給電機を小型化し、偏波合成機能を受電機に搭載するなど、2018年3月に発表したマイクロ波遠隔給電システムから大幅な改良を施した。
東芝は2023年12月5日、5GHz帯の無線LANと共存するマイクロ波遠隔給電システムを開発したと発表した。無線LANとの共存は「世界初」(同社)で、アレイアンテナを用いたビームフォーミング型給電機をA4サイズに小型化するとともに、垂直偏波と水平偏波の両方に対応する偏波合成機能を受電機に搭載するなど、2018年3月に発表したマイクロ波遠隔給電システムから大幅な改良を施した。2024年度から工場などで用いられる産業機器を中心に実証実験を開始し、早ければ2025年度にも事業化したい考えだ。
日本国内では2022年5月から、空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムとして920MHz、2.4GHz、5.7GHzという3つの周波数帯の利用が認められている。東芝は、帯域幅が38MHzと最も広く、最大32Wの電力を送信できる5.7GHz帯を用いたマイクロ波遠隔給電システムを開発している。
今回発表した新たな開発成果は大まかに分けて3つある。1つ目は、同じ空間内の他の無線システムを高精度に検出し、給電ビームの切り替えや停波によって干渉を回避することで共存を実現する「無線ハーモナイゼーション」である。特に、5GHz帯のWi-Fiとマイクロ波遠隔給電システムが使用する周波数帯域は隣接しているため、干渉による影響が課題になっていた。
5GHz帯のWi-Fiでは、同じ空間内で運用されているWi-Fiシステム間の干渉を避けるために使用しているチャネルを検出することが可能だが、帯域幅20MHzとなるチャネルのうち特定のものだけだった。今回開発した無線ハーモナイゼーションでは、200MHz以上の帯域幅になる5GHz帯のWi-Fiの全帯域を対象に使用の有無を検出できるため、無線信号を検出した場合には給電する方向を変更するなどして、Wi-Fiの通信に干渉することなく共存できるという。「Wi-Fiの通信に常時接続を求めないアプリケーションも多く、時分割によってマイクロ波遠隔給電システムとWi-Fiを共存させられる」(東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリー エキスパートの谷口健太郎氏)という。
2つ目の開発成果は、外形寸法が250×400×85mmと給電機を大幅に小型化したことだ。他無線システムとの共存機能を含む信号処理回路、増幅回路、位相制御回路、64素子アンテナを一体化しており、広さが600×600mmだった2018年3月発表時のものと比べて設置面積を72%削減できている。64素子アンテナアレイの動作時における内部回路の発熱を十分に冷却できるような熱設計を採用するとともに、送受信回路を構成するアナログとデジタルの配分を最適化するなどの工夫を盛り込んで小型化を実現した。
3つ目は、偏波の方向が異なる水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を同時に受信できる受電機だ。マイクロ波遠隔給電システムにおいて効率良く受電するためには、給電機から送られる偏波と呼ばれる電磁界の変動方向に対して、受電機アンテナの設置位置や方向を変えて合わせ込む必要がある。今回開発した受電機は、2種類の電波を受信/合成することにより、受電機アンテナの設置位置や方向を気にせず効率的に受電することが可能になる。1.5m離れた場所に設置した受電機に対して給電を行ったとき、垂直偏波/水平偏波のどちらかにのみ対応するアンテナを用いた場合と比べて、受電電力の平均値が2倍になったという。
これら3つの開発成果を盛り込んだマイクロ波遠隔給電システムでは、距離3mで100mW、距離10mで1mWの電力を給電することができた。谷口氏は「無線ハーモナイゼーション、小型の給電機、偏波合成機能を持つ高効率受電機など競合他社と差異化する特徴を備えており、空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの法整備がさらに進む段階に向けて製品化を進めていきたい」と述べている。
なお、今回の開発成果は、台湾の台北で開催されるマイクロ波関連の国際会議「APMC2023」において、2023年12月6日と8日に発表される予定だ。
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