新型コロナウイルス感染症治療用のT細胞製剤の作製に成功:医療技術ニュース
京都大学は、新型コロナウイルス感染症治療用の多能性幹細胞由来T細胞製剤の作製に成功した。多能性幹細胞のES細胞を材料とし、ウイルス感染細胞を殺傷する能力を持つキラーT細胞をベースにしている。
京都大学は2024年7月30日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療用の多能性幹細胞由来T細胞製剤の作製に成功したと発表した。今後、がん治療で免疫不全状態となり、COVID-19難治性とされた症例を対象として、藤田医科大学で臨床試験を実施する計画だ。
COVID-19治療用のT細胞製剤は、ウイルス感染細胞を殺傷する能力を持つキラーT細胞をベースにしている。キラーT細胞は、T細胞レセプター(TCR)という分子を使用してウイルス感染細胞を見つけ出し、殺傷する。
材料となる多能性幹細胞のES細胞は、拒絶されにくいようにHLA(白血球の血液型)の遺伝子を欠失させた。そのES細胞からキラーT細胞を作製し、その後COVID-19の特異的TCR遺伝子を導入して、キラーT細胞を再生した。作製したキラーT細胞は、COVID-19由来タンパクを発現した細胞を殺傷できた。
TCRのクローニングには、日本人に多いHLA-A2402かHLA-A0201を持つ人をドナーとして末梢血単核球を採取し、スパイクタンパク特異的なTCRを発現するT細胞を分離した。これをクローニングして、HLA-A2402対応のTCRを3種類、HLA-A0201対応のTCRを2種類取得した。これを再生キラーT細胞に導入したことで、日本人の約6割に使用可能なT細胞製剤を作製できた。
同T細胞製剤は研究用となるが、京都大学、藤田医科大学、大阪大学、国立成育医療センターと共同で特許を出願している。今後、各工程を臨床試験に使えるレベルで実施し、3年程度で最初の臨床試験を実施したいとしている。
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