日産が挑む真夏の車内温度上昇を防ぐ塗料、外部表面で最大12℃の温度低下:材料技術(3/3 ページ)
日産自動車は、夏場の直射日光による車室内温度の過度な上昇を防ぐことで、エアコン使用時のエネルギー消費を減らし、燃費と電費の向上に貢献する自動車用自己放射冷却塗料の実証実験の途中経過について紹介した。
自動車用自己放射冷却塗料の開発における工夫
メタマテリアルの技術を利用した放射冷却塗料は建築用途では利用されているが、建築塗装は自動車用塗装と比較すると塗膜が厚く、ローラーで塗布することを前提としており、自動車の塗装に必要なクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため日産は、この塗料を自動車に適用できるように、エアスプレーでの塗布やクリアトップコートとの親和性、同社の厳格な品質基準など、さまざまな条件への対応に取り組んだ。
そして約3年の開発期間を経て、日産 総合研究所 先端材料・プロセス研究所 主任研究員 物理機能材料(メタマテリアル)エキスパート 工学博士の三浦進氏をはじめとする研究者が追浜総合研究所(神奈川県横須賀市)で100以上のサンプルを作製し、一般的な自動車塗装に用いられるエアスプレーでの塗装に成功した。さらに、自動車用塗装への適用として重要な案件の1つである塗装膜厚では、同等の冷却性能を確保しつつ開発当初の120μm(0.12mm)から大幅な薄膜化に成功した。
しかしながら、三浦氏は「現時点で、自動車用自己放射冷却塗料の膜厚は、通常の自動車用塗料と比べ6倍の厚みがある。そのため、量産車への採用は難しい」と話す。そこで、同社は現在、トラックや救急車など、炎天下においての走行が多い商用車への特装架装としての採油を検討している他、商用化に向けてさらなる薄膜化に取り組んでいる。
ラディクール ジャパンの販売代理店を務める日本空港ビルデングの取り組み
日本空港ビルデングは、「人にも環境にもやさしい先進的空港」を目指し、カーボンニュートラルに貢献する活動を推進している。その取り組みの1つとして、2020年から放射冷却素材の開発を担うラディクール ジャパンと提携し、羽田空港内で夏季の暑さ対策が課題となっているパッセンジャーボーディングブリッジ(PBB)やターミナルビルと駐車場をつなぐ連絡橋にRadi-Coolを施工した。
これにより、施設/設備の冷房効率を高めて羽田空港を利用する顧客および従業員に快適な環境を提供している。効果に関して、Radi-Coolの施工箇所は、いずれも施工前と比べて4〜5℃の温度低減が確認されている。
また、既に国内13カ所の空港にRadi-Coolを導入している他、ホテル、病院、学校、飲食店舗、鉄道会社や通信会社のキュービクル(高圧受変電設備)など、全国各地の施設にRadi-Coolの施工を実施しており、今後は沖縄県に中心にさまざまな業界にRadi-Coolを展開していく考えだ。
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