「大気の窓」で冷える放射冷却メタマテリアル技術、日産が純正アクセサリーに採用:材料技術
日産自動車が放射冷却素材の「Radi-Cool(ラディクール)」を、自動車メーカーとして初めて純正アクセサリーに採用した。全国の日産自動車の販売店において、ラディクールを使用した「サンシェード」「カーサイドタープ」「ハーフボディカバー」を「キックス」向けに発売。今後対象車種を拡大していく予定だ。
日産自動車は2021年11月2日、放射冷却素材の「Radi-Cool(ラディクール)」を、自動車メーカーとして初めて純正アクセサリーに採用したと発表した。同日から全国の日産自動車の販売店において、ラディクールを使用した「サンシェード」「カーサイドタープ」「ハーフボディカバー」を「キックス」向けに販売を開始し、今後対象車種を拡大していく予定だ。
ラディクールは、ラディクールジャパンが開発した素材で、環境負荷が少なく、省エネ効果を高めて、ゼロエネルギーで物体を冷却する世界初の「放射冷却メタマテリアル技術」を採用している。2017年2月に科学誌「Nature」で発表された放射冷却メタマテリアル技術は、物体の表層の材料組成とミクロ構造を調整することで、物体からの電磁波放射を大気にほとんど吸収されない領域である「大気の窓」と呼ばれる波長帯(8μ〜13μm)に集約できる。このため、物体が持つ熱を効率よく放出できるので表面温度を下げる効果が得られる。
ラディクールジャパンの説明動画によれば、日中に太陽光にさらされた車両の表面温度で比較すると、通常は49℃になるところをラディクールを貼り付けることで27℃に低減できたという。今回、日産自動車が新たに発売する純正アクセサリーは、ラディクールを採用することで、一般的な材料を用いた製品と比べてタープ内や車室内の気温上昇を抑制できる。
なお、日産自動車の総合研究所は2021年10月にラディクールジャパンと自動車用放射冷却部品の共同開発契約を締結し、新たな実用化を目指した研究開発を開始している。「ゼロエネルギーで自動車の冷却を行うことは、カーボンニュートラルの実現においても、重要な技術の一つになる」(日産自動車)としている。
ラディクールジャパンは2019年2月に設立された中国企業の日本法人で、会長CEOはプロ経営者として知られる松本晃氏が務めている。
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