力づくのイノベーションで変革起こす、ロボットの手に目を与える視触覚センサー:羽田卓生のロボットDX最前線(8)(3/3 ページ)
「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する本連載。第8回は、視触覚センサーを用いた独自のエンドエフェクターを開発するFinger Visionを取り上げる。
「力づくのイノベーション」の意味
濃野氏は「食品などいくつかのコミットしている産業に対しては、構造から変革したい。生産を基軸にビジネス全体を変えるところまでやり、ようやくDX(デジタルトランスフォーメーション)だ」と語る。大手コンサル企業で、企業のDX案件に多く携わっていたからこその目線といえる。ロボットの指先のセンサーから、経営レベルの変革まで結び付けて、将来の事業構想を考えている。
生産を基軸としたビジネスの変革とはどういうことか。例えば、弁当工場では人の手で盛り付けをしている以上、弁当の出荷時間である午前に合わせて深夜に人を集めなければならない。しかし、盛り付けを自動化できれば人手に依存しない生産が可能となる。24時間生産も今までより容易になる。
そのような工場は従来の工場とは構造も異なるだろうし、弁当の売り方も幅広い手法が選べるようになる。小型で安価になれば工場でなく、店舗で盛付というまったく違うバリューチェーンになるかもしれない。
同社のサイトには、4つのValue(企業が大切にする価値観や行動指針のこと)が掲げられている。その1つに、「力づくのイノベーション」というものがある。そこには「コア技術の洗練だけでは、ロボットの利活用領域は広がらないことを素直に認め、本質に迫ることや、既知の技術との組合せ・適材適所などをフェアに判断し、イノベーションを起こす」という一文も添えられている。中身より、実績・結果がイノベーションにつながるという考えだ。
センサーという部材販売だけでなく、生産設備、装置の構築まで行うのはこの考えがベースになっているのであろう。
視触覚センサーの先に見据えるもの
濃野氏は、同社の将来ビジョンを2つのポイントで語ってくれた。
1つは、世界で起き始めているモバイルマニピュレーター開発競争のキーがハンドであること。
産業用ロボット本格普及期となった1980年代の第一次ロボットブーム、ASIMOなどが登場した2000年前後の第二次ロボットブームに続き、2015年ごろに起きたロボット開発競争は、第三次ロボットブームといわれている。
このブームでは、ルンバのような清掃ロボット、pepperに代表されるコミュニケーションロボット、人と同じ空間で作業できる協働ロボット、倉庫向けAMRなどが登場した。
2023年から起きている第四次ロボットブームは、人型を含むモバイルマニピュレーターの開発競争が起きている。特に米中でヒューマノイドロボットの開発競争が起きており、数百億円規模の大きな投資を受けている企業も出てきている。
だが、この第四次ロボットブームのヒューマノイドロボットはみな「マッチョ」なハードばかりだ。しかし、人間の作業は全てタフなものばかりではない。マニピュレーション業務でいうと、折り鶴を折るような繊細な作業も多い。手術ロボット以外だと繊細なロボットはあまり出ていない。特にハンドは繊細作業もとても重要なファクターだ。「足りていないのは、ハンド、エンドエフェクター。ブームの先に2、3年でハンドの勝負になってくる」(濃野氏)。
2つ目は、「触覚データベースの構築」と濃野氏は言う。これは同社の視触覚センサーをロボットハンドだけに留めず、触覚全般のセンサーとして用いることで考えられる世界観だ。
人は触覚を使ってポケットの中にあるコインの種類まで把握して取り出すことができる。また、持っているグラスが滑って落としそうになると何も考えずに、持ち直して落とさないようにする。
「さらさら」「ぬるぬる」「つるつる」といった触覚に関する表現も、他人にとっての「さらさら」と自分にとっての「さらさら」はまったく異なる場合がある。
現場では触覚が必要なタスクは多い。しかし、「俗人的な職人の経験に基づく取り扱いが多い」と濃野氏は言う。これらの感覚を数値として表現できれば、ベテランの職人の感覚を再現したハンドが投入できることになる。
濃野氏は「把持する対象物も、適合産業も定義していない。ロボットで把持する必要があれば何もいい」と自社技術の適応範囲の広さについて述べている。自動化未踏だった国内外の現場でFingerVisionが躍動する日もそう遠くないかもしれない。
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