AI家具移動ロボットが日常生活“カイゼン”、日々の数歩の削減で何が変わるか:羽田卓生のロボットDX最前線(7)(1/3 ページ)
本連載では「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する。第7回はPreferred Roboticsが開発した、家庭用自律移動ロボット「カチャカ(Kachaka)」について、同社で代表取締役 CEOを務める礒部達氏に取材した。
「ねえカチャカ、食器棚をキッチンに持ってきて」。こんな自然言語の指示だけで動く新しいロボットが2023年に発売された。Preferred Roboticsが開発した、家庭用自律移動ロボット「カチャカ(Kachaka)」だ。同社は、AI(人工知能)事業を主体とした国内最大級のユニコーンカンパニーであるPreferred Networks(以下、PFN)から分社化したロボット会社だ。三菱重工、トヨタ自動車などでロボット開発に携わり、Preferred Roboticsで代表取締役 CEOを務める礒部達氏によると、カチャカは家庭用だけでなく、ビジネス向けとしても大きな可能性を秘めているという。AI企業が送り出すビジネス向けロボットの可能性を考察する。
AI企業がロボットを開発する理由とは
カチャカは「ねえカチャカ」と話しかけると反応し、その後の指示を受けてキャスターが付いた専用の可動式家具「カチャカファニチャー」に潜り込み、指定の場所に運んできてくれる家庭用自律移動ロボットだ。途中の障害物は検知して避けながら移動することができ、指定の曜日、時間に運ぶスケジュール設定も可能となっている。
カチャカの発売からさかのぼること5年前。Preferred NetworksがIT関連の展示会である「CEATEC Japan 2018」において、全自動お片付けロボットシステムを発表した。
CEATEC Japan 2018では、PFNの代表取締役 最高経営責任者の西川徹氏が基調講演「すべてのひとにロボットを」において、PC並みにロボットを普及させるためには、「多様な環境の一般化」がロボットの社会浸透の鍵になると語った。まさに、室内の散らかり具合が異なる家庭という環境こそが、PFNのAI技術を用いて最初に踏破すべき「多様な環境」だったのだろう。
AI企業による家庭向けロボットの開発には大きな反響があり、展示会の開催期間中、同社のブースは連日の人だかりだったことは筆者の記憶に鮮明に残っている。全自動お片付けロボットもカチャカと同じく「家庭の部屋の片付け」がテーマとなっているが、この2つはまったく異なるロボットだ。もっとも大きな違いは、アームの有無だ。
全自動お片付けロボットからカチャカへの変遷
全自動お片付けロボットシステムは、トヨタ自動車が開発した生活支援ロボット「HSR(Human Support Robot)」を用いたものであった。そこから、カチャカを内製、発売するまで約5年。どんな検討があったのだろうか。
礒部氏は「2018年は私はまだトヨタに在籍しており、PFNに参加したのが2019年2月。もう同年の夏ごろには、いまのカチャカの形に近いところまで至っていた。プロトタイプでは、ラジコンの上に家具を載せていた。アーム付きのロボットも検討したが、マーケティングをしていく中で、アームで直接片付けをするロボットより、自律移動で家具を運ぶ方が市場が大きいという判断をした」と開発の経緯を語る。
カチャカは世の中に類似の製品がないといえるほど独創的なプロダクトだ。世の中にないものは人に伝えにくいため、マーケティングは非常に難しい。
「もちろん、アーム付きロボットの方がユーザーはイメージしやすく、片付けができるという機能を伝えるのは簡単だ。しかし、家具自体が動くことによって家が片付くという、難易度が高い方を選んだ。モノをつかんで運ぶのは人の方がうまい。しかし、ロボットは何往復も同じ動作を繰り返すのは得意だ」(礒部氏)
結果として、カチャカは人の得意とロボットの得意をかけ合わせたロボットとなり、プロダクトから無駄な要素をそぎ落とし、社会実装のスピードを上げることになった。
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