AI家具移動ロボットが日常生活“カイゼン”、日々の数歩の削減で何が変わるか:羽田卓生のロボットDX最前線(7)(2/3 ページ)
本連載では「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する。第7回はPreferred Roboticsが開発した、家庭用自律移動ロボット「カチャカ(Kachaka)」について、同社で代表取締役 CEOを務める礒部達氏に取材した。
移動するロボットがなぜ日常生活をカイゼンするのか
では、なぜカチャカを使うと家が片付くのか。礒部氏は「カチャカは片付けを楽にする仕組みを作っている。人にはやるべきことがいっぱいあり、普通は片付けなんて面倒でしたくない。しかし、片付けを先延ばしすると少しづつ家が散らかっていく。片付けで重要なのは、モノの住所、定位置を決めること。これは製造現場と同じで、モノの定位置を決めることがカイゼンの基本となる」と話す。
決められた場所に決められたモノを収納することで、モノを探す時間を削減し、作業効率を高めるのは工場のカイゼンにおける基本の1つだ。カチャカを使うことで、これを家庭で実践できるようになるというのだ。
部屋を片付けずにいると、モノが定位置に戻らず迷子になって、探すのに時間がかかり、ストレスも生じてしまう。カチャカは指示を受けると家具を人の前まで持ってきて、用が済むと元の位置に戻してくれる。日常でよく使うモノをまとめてカチャカに置いておけば、カチャカが定位置となってモノの整理整頓が済んでしまうのだ。
それによって、自分で家具の定位置の場所に行くより、歩数が少なくて済む。この、ほんの数歩だが日々繰り返される手間の削減が、長い目で見ると大きな効果を発揮する。確かに言葉などで非常に伝えるのが難しいコンセプトであり、実際に使ってみないとその価値は分からないかもしれない。
礒部氏によると「マルチタスクが得意な人がカチャカを使いこなすケースが多い」という。例えると、カチャカを使って食事の配膳をしながら、自分が下膳もするようなケースだ。
AIのために要素技術から練りこまれたロボット
カチャカのデザインは非常にシンプルだが、中身は非常に高度に設計されている。特にAIのパフォーマンスをフルに発揮するために作られており、ソフトウェアのバージョンアップとともに劇的に性能が進化する可能性を持ったハードに思える。
従来型の携帯電話端末(フィーチャーフォン、ガラケー)からスマートフォン(スマホ)に変わった時代を思い出してほしい。ガラケーは購入した瞬間が性能のピークだが、スマホはOSがどんどんバージョンアップされ、アプリも増えていく。ハードウェアは変わらずとも、ソフトウェアの更新で中身は進化する。
カチャカのコアとなる独自基板のCPUは、音声認識や障害物回避、衝突予測を可能にする5つの最先端のDeep Learningモデルを搭載している。限られた計算資源の中で、5つものモデルを動かすことは非常に困難だが、これらはPFNが開発したAIプロセッサ「MN-Core」を用いて最適化されているという。普通のロボットを専業とする組織ではまねができない芸当だ。
センサー類も多数搭載されており、高精度の自己位置推定や床面の状況確認、さらに生活音の中での高精度な音声認識も行える。これらにも、PFNの高度なAI技術が使われており、完成度の高い製品として仕上がっている。カチャカは家具がロボットになったのではなく、AIを家具という形で実体化した製品なのだ。
カチャカに搭載されているセンサー類
RGBカメラ 2個
LiDAR(Light Detection And Ranging) 1個
ToF(Time of Flight)センサー 1個
段差センサー 2個
家具認識センサー 1個
マイク 4個
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