AI家具移動ロボットが日常生活“カイゼン”、日々の数歩の削減で何が変わるか:羽田卓生のロボットDX最前線(7)(3/3 ページ)
本連載では「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する。第7回はPreferred Roboticsが開発した、家庭用自律移動ロボット「カチャカ(Kachaka)」について、同社で代表取締役 CEOを務める礒部達氏に取材した。
LLM搭載によって広がるロボットの可能性
カチャカにはLLM(Large Language Model、大規模言語モデル)も実装される予定だ。これによって、カチャカへの音声指示を大きく簡素化することができる。
例えば、部屋にカチャカ本体が1台、カチャカ用の棚が3つあったとする。1つ目の棚にはキッチンで使う調味料や食材、2つ目の棚には読みかけの書籍や雑誌、3つ目の棚には化粧品が乗っていたとする。
いままでのロボットは、事細かに指示や設定をしないと動かないものがほとんどだ。これが、LLMを用いることで「ねえカチャカ、食器棚をキッチンに持ってきて」だけで1つ目の棚をカチャカで運ぶことができる。他には、「喉が乾いた」だけで飲み物を持ってきてくれるという使い方まで可能になる。
既述の通り、カチャカにはカメラの他、多くのセンサーが搭載されており、床の障害物や人の位置など、環境の認識が可能になっている。画像と音声などの複数種の情報を用いて、より高度な判断を行うAIをマルチモーダルAIと呼ぶが、このLLMを組み合わせて使うことでもっと便利な世界がやってくる。従来のロボットのように動くのではなく、ロボットから自発的に人に作用していくことも可能になるのだ。
長時間休憩も取らず働いている人にねぎらいの言葉とともに飲み物を配る、工場で指定位置以外にモノがおいてあれば注意を促す、スケジュールから次のタスクを予想して必要な道具を運ぶなど、組み合わせは無限に近い。ロボットが常識を持ち、一歩先回りすることで、人が本来すべきことに集中できる環境を作ることができるようになる。
カチャカの法人向けとしての可能性
カチャカはまだ家庭向けが主力だが、法人向けにも着実に台数が伸びてきているという。飲食、医療、オフィス、そして、工場向けが主な導入先だ。
例えば、歯科医院ではカチャカが患者の治療室へ必要な器具を運び、治療の効率化に貢献している。工場では、ネジや部品の配送に利用されており、作業員の移動時間を削減し生産性を向上させている。
礒部氏はカチャカの法人向けの未来について「大きな工場やオフィスで動くには、今のカチャカに搭載されているLiDARの性能では物足りない。可搬重量ももっと重くする必要がある」と話す。
どんな現場でも、雑多な名もなき業務は多く存在する。生産性に直結しない業務の多くは移動を伴う。補充部材を取りに倉庫へ行く、書類を別のフロアにいる部門に渡す、荷物が届いているか見に行くなど、業務として明文化されてないタスクはまだまだ多くの現場に存在している。
「工場で勤務していたこともあり、カチャカを通して1歩2歩をカイゼンするカルチャーを、製造業以外にも適用できるのではないかと考えている。毎日繰り返されるこの1歩2歩が、ロングテール的に大きなビジネスインパクトになっていることもあり得る」(礒部氏)。
日常的にロボットが使われ始めると、前述のマルチモーダルな機能が徐々に効果を出してくるであろう。カチャカが運搬をしながら、「そろそろ休憩しましょう」「山田さん、総務へ書類の提出は済みましたか」「出口さん、松井部長が席に戻ってましたよ」、なんてことをカチャカが教えてくれ、現場の改善の速度がより早くなることも想像できる。
Deep learning×Roboticsで異次元のイノベーションを
過去の連載でも毎回のように人手不足の問題に触れているが、昨今はより悪化の兆しを感じている。為替の影響で、外国人労働者が日本を選ばなくなったどころか、日本から海外への労働者移転も加速を始めていると聞く。
いままで省人化問題は「ロボットか、移民か」といわれてきたが、もはや「ロボットか、我慢か」という段階まで来ているのではないかと感じる。1998年に社会人になった第2次ベビーブーマー末期の筆者の時代では、入社が数年早い先輩社員に、雑用を頼まれることが普通だった。
筆者より若い世代ではそうやって使われた経験はあっても、使った経験はないという人が多いのではないか。人がもう使えないことは諦めたとしても、せめて、ロボットを手先として使わせてあげてほしい。
現在、業務用ロボットが普及しているのは清掃や配膳などの業務だ。飲食業なら、ロボットで配膳ができても、調理など本業の仕事をロボットに置き換えるのは非常にハードルが高く、ロボットが人の業務をサポートするという流れがしばらく続くだろう。
カチャカも含めてこのようなロボットの存在は、いわば「ミニオン(minion:手先、子分の意)」だ。いろんな能力をもったロボットが手先となって動いてくれる。しかし、本当に単機能なロボットばかりだと、職場がミニオンで溢れかえってしまう。やはり、マルチな機能を持ってほしい。そこは、まさにAIの進化に期待するところだ。
礒部氏は、PFNにジョインした理由の1つに、「Deep learning×Roboticsの可能性に興味があったから」と述べた。年々完成度が高まるロボットに、非線形な進化を見せるAIが組み合わさることで、この人手不足に抗らうイノベーションがきっと起きるはずだ。
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