なぜB2B製品にデザインが必要なのか? 競争優位性を高めるデザインの活用法:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(11)(6/6 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は、これまであまり注目されてこなかったB2B製品におけるデザインに着目し、その効果や重要性、そして競争優位性向上のためのデザイン戦略について解説する。
3-3.デザイン組織の配置
デザインは、他の技術職同様に専門性が高い分野です。従って、デザインを製品開発や事業に組み込むには、デザイン組織またはそれに類する機能の配置が重要です。
社内にデザイン機能を配置する方法には、以下のパターンがあります。
社内デザイン部門の設置
デザインチームが内部にあれば、自ずとデザインチームは企業文化や製品知識に深く精通し、企業の特徴に沿ったデザイン活動を行うことができます。また、製品開発の進行中にもリアルタイムでフィードバックを反映しやすく、迅速な対応や細部にまで配慮したデザインが可能です。
しかし、設置には一定の投資と人件費がかかり、その維持には継続的な教育や技術研修が必要です。また、特定のスキルセットに偏りがちになり、広範囲なニーズに対して柔軟に対応するのが難しくなる場合もあります。
外部デザイナーの活用
外部デザイナーの活用は、短期間でデザインの専門知識や新しい視点を獲得できるため、企業にとって大きなメリットがあります。また、外部のデザイナーは他社や他業界、最新のトレンドや技術に精通しており、プロジェクトに新鮮なアイデアをもたらす可能性があります。また、必要に応じてリソースを調整できるため、財務的リスクも低減可能です。
しかし、外部のデザイナーと企業内部のコミュニケーションがうまくいかない場合、結果として一貫性のあるブランドメッセージを維持することが難しくなるケースがあります。さらに、プロジェクトごとに外部デザイナーが変わると、長期的なビジョンを共有するのが難しくなるという懸念点もあります。
ツールとテンプレートの活用
デザインツールやテンプレートの活用は、コスト削減と迅速な実行を可能にします。ブランドガイドラインやデザインプロセスのテンプレートなどの作成時には、外部デザイナーや外部サービスを頼る必要があるものの、一度定着すれば短時間/低コストでデザインの活用ができます。
しかし、柔軟性には限界があり、新製品の開発や特殊なニーズに対して応えることが難しい場合があります。そのため、製品開発における全てのデザインプロセスをツールやテンプレートに置き換えることは現実的ではなく、一部の定常的なデザイン業務にとどまります。
それぞれのアプローチは、いずれかを選択するというわけではなく、企業ごとのニーズや状況に応じて適用されるものです。事業目標や社内リソースを考慮し、最適な方法を選択することが、成功の鍵となります。
まとめ:B2B製品のデザイン投資が必要な時代
B2B製品においても、デザインは事業の競争優位性を高めるための重要な要素です。しかし、B2B製品の開発に携わる技術者や経営者の中には、「デザインはコストがかかる」「機能が実現できれば見た目は二の次」といった認識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
確かに、デザインは短期的に目に見える成果が出づらい投資である場合もあり、コスト削減の対象として捉えられがちです。しかし、本稿で解説したように、デザインはブランドロイヤリティー、そして顧客体験を高めることで、中長期的な企業の成長を促進し、収益向上に貢献する、将来に向けた戦略的な投資となり得ます。
例えば、顧客起点の開発プロセスを導入し、ユーザーインタフェースのデザインに注力すれば、顧客の業務効率が向上し、ひいては顧客満足度の向上、解約率の低下、そして、口コミによる新規顧客獲得へとつながります。
これらの効果は、目に見える数値として表れにくい場合もありますが、顧客との長期的な関係構築、ブランド価値の向上、そして持続的な収益の確保に大きく貢献することは間違いありません。
競争が激化する現代のB2B市場において、デザインへの投資はもはやオプションではなく、生き残りをかけた必須の取り組みになりつつあります。そして、既にこれに気付き始め、デザインに取り組んでいるB2B企業も近年では増えてきています。
将来の市場を勝ち取るためにも、B2B企業は今こそデザインを戦略的に活用すべきではないでしょうか。 (次回へ続く)
Profile:
菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表
株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他
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