AI時代のデザイン デザイン業務におけるAI活用の現状と展望:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(12)(1/3 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は「AI時代のデザイン」をテーマに、インダストリアルデザインにおけるAI活用の現状と展望について解説する。
1.イントロダクション
近年、AI(人工知能)の目覚ましい進化は、さまざまな分野に革新をもたらしています。デザイン分野も例外ではなく、AIはこれまでデザイナーの独壇場とされてきたクリエイティブ領域にも進出しつつあります。
果たして、AIはデザイナーの仕事をただ奪うだけの存在なのでしょうか。それとも、新たな可能性を切り開くパートナーになり得るのでしょうか。本稿では、特に工業製品開発におけるデザイン業務(インダストリアルデザイン)に焦点を当て、AI活用の現状と将来展望について詳しく解説していきます。
なぜ今、AIがデザイン分野で注目されているのか?
従来、デザイン業務はデザイナーの感性や経験に基づく属人的なスキルに大きく依存していました。また、その成果物の評価をするに当たっては、客観的な指標が立てづらく、定量化が難しい領域でした。しかし、AI技術の進化が、こうしたデザインの在り方に大きな変革をもたらそうとしています。
まず、AI技術の進化に伴い、これまで属人的なスキルに頼らざるを得なかったデザイン業務の一部が、自動化/効率化できるようになりつつあります。例えば、ディープラーニングの登場は、AIによる画像認識能力を飛躍的に向上させました。これにより、AIに大量のデザインデータを学習させることで、従来デザイナーの経験や勘に頼っていたデザイン制作の一部(例えば、画像のトリミング、合成、引き延ばしなど)をAIに置き換えることが可能になりました。
また、AIの進化はデザインの評価において、定量的な指標を提供しました。例えば、ユーザーインタフェース(UI)デザインの領域では、AIを活用して、UIの使いやすさや印象を定量的に評価することに成功しています。一例として、ユーザーの画面上での行動をトラッキングして、ユーザーの行動遷移を可視化し、適切なボタンの位置や大きさを提案する技術などが既に実用化されています。
このように、デザイン分野においてAIは、デザイナーの属人性の排除や、新たなデザインの可能性を切り開くためのツールとして注目されているのです。
インダストリアルデザインにおけるAI活用の現状
AI技術の活用は、文字情報や画像処理の分野で注目が集まりがちですが、立体を取り扱うインダストリアルデザインにおいてもその可能性が期待されています。
確かに、インダストリアルデザインは、製品の機能性、製造プロセスとの整合性など考慮すべき要素が複雑で、かつ3次元で設計する必要があるため、現状のAI技術ではその全ての業務を代替することは困難です。しかし、アイデア検討や解析など、一部の業務領域においては、AIでの補助または置き換えが可能なものもあります。
例えば、まだ発展段階にあるものの、インダストリアルデザインにおいては、以下のAI技術の活用が進んでいます(表1)。
技術 | インダストリアルデザイン業務における活用方法 |
---|---|
画像生成 | 製品イメージ、アイコン、パッケージデザインなどの自動生成 |
構造最適化 | 設計要件に基づき、最適な製品形状を自動生成 |
テキスト生成 | ユーザーフィードバックなどのテキストデータの解析および示唆提言 |
UI最適化 | 操作系(UI)のボタンサイズ、位置、色などの最適化 |
表1 インダストリアルデザイン業務におけるAI技術の活用例 |
以上のような活用方法は、これまで時間と労力を要したインダストリアルデザインのプロセスを効率化できるだけでなく、これまでにない革新的なデザインを生み出す可能性を秘めています。
2.インダストリアルデザインにおけるAI活用事例
前述の通り、インダストリアルデザイン領域におけるAI技術の活用は、まだ発展途上であるものの、一部の企業では既に実用化が進んでいます。例えば、“自動車業界×AI”といえば、自動運転技術を思い浮かべるかもしれませんが、現在では車体のデザインや内装の設計にAIを活用する事例が出てきています。
ここでは、インダストリアルデザイン業界におけるAI活用の具体例について触れていきます。
画像生成AIによるデザイン検討
画像生成AIは、近年特に注目を集めている技術です。画像生成AIは膨大なデータを学習し、そこから制作者の意図に合わせた新しいデザインを生み出します。そして、この技術は今、インダストリアルデザインの領域においても活用が検討されています。
例えば、図1は汎用(はんよう)的な画像生成AIを用いて制作したドライヤーのデザインです。
プロ目線で見ると、気になる点は多々あるものの、“ドライヤーっぽい”画像が簡単に生成できます。ただし、詳細なスケールやボタン構成などの設計要件を生成画像に反映するのは困難なため、このデザインが最終製品のデザインとしてそっくりそのまま使えるわけではありません。AIが生成したデザインはあくまで参考として捉え、最終的には人間のデザイナーがデザインの良しあしを判断し、修正を加える必要があります。
最終的な判断は人間の役目となりますが、画像生成AIによって生成されたデザインは、デザイン従事者にとって新しいインスピレーションの源泉となり、デザインの幅を大きく広げる可能性を秘めています。
画像生成AIで思い通りのイメージを出力するには、プロンプトのコントロールやテクニックが必要となりますが、それさえできれば、プロジェクトメンバーにスケッチ技術がなくても具体的なイメージに基づき、製品デザインの議論を進めることができます。
さらに、インダストリアルデザインの活用に特化したAIツールである「Vizcom」などを活用すれば、より複雑な検討も可能です。Vizcomを使用すれば、単純なスケッチを数秒以内にリアルなレンダリングに変えることができます(動画1)。
Vizcomに関しても、製品寸法や詳細な技術要件を反映できるものではないため、生成したイメージをそのままデザインに採用できるわけではありません。また、情報の少ない、全く新しい製品に対しての適用も困難です。しかし、前述の通り、デザインのインスピレーションをこれらの生成画像から得たり、意匠の大きな方向性を定める際に活用したりすることは十分に可能です。
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