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レゾナックが素材で挑む月面開発、寒すぎる月の夜に電力を確保するシステムとは?素材/化学インタビュー(3/3 ページ)

近年、イーロン・マスク氏が率いる米国のスペースXや国内のispaceなどにより月面の開発が注目を集めている。そこで、月の砂であるレゴリスを蓄熱体として利用する「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」の開発を進めているレゾナックに話を聞いた。

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開発の進捗状況とは?

MONOist レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムの開発の進捗状況を教えてください。

清水氏 現状は月の砂であるレゴリスの入手が難しいため、代替品として土木試験用の標準砂で利用されている豊浦標準砂を、レジンコーテッドサンド技術によりポリアミドイミド(PAI)樹脂やフェノール樹脂でコーティングし熱特性の改善効果を調べている。豊浦標準砂は山口県豊浦町で産出される天然珪砂で酸化ケイ素が多いのが特徴だ。

樹脂コーティングレゴリスの構造と熱特性改善効果
樹脂コーティングレゴリスの構造と熱特性改善効果[クリックで拡大] 出所:レゾナック
豊浦標準砂をレゴリス模擬剤として使用した樹脂コーティングサンプルの試作条件
豊浦標準砂をレゴリス模擬剤として使用した樹脂コーティングサンプルの試作条件[クリックで拡大] 出所:レゾナック
豊浦標準砂にフェノール樹脂を2%コーティングしたサンプルと豊浦標準砂にPAI樹脂を2%コーティングしたサンプル

MONOist レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムを実用化する上での課題は何でしょうか。

清水氏 先ほど述べた、樹脂をコーティングしたレゴリスを締め固める作業の他、樹脂をコーティングすることで熱伝導性を高めたレゴリスから熱を取り出し熱電変換する点に課題がある。当社のシミュレーションによれば、樹脂をコーティングしたレゴリスの熱量のうち6%を熱電変換素子で越夜時に電力変換できることは分かっているが、このレゴリスに熱電変換素子をただ接続するだけでは1%も熱電変換できない。なぜかというと、熱電変換素子は素子の反対部分を冷たくしないといけないが月面は真空状態のため熱が逃げにくく熱の差分がとれず熱電変換が難しいからだ。そのため、熱の取り出し方などを検討し、約10%の熱電変換効率の実現を目指している。

MONOist 今後の展開とレゾナックのレゴリス物理蓄熱エネルギーシステムの可能性を教えてください。

清水氏 2024年9月までに、JAXAと協力し月に似せた成分の砂「レゴリスシミュラント」に樹脂をコーティングし、蓄熱性能を確認するとともに、樹脂のコーティング方法などを検討する。

 レゾナックのレゴリス物理蓄熱エネルギーシステムの可能性に関して、レゴリスを樹脂でコーティングすることで蓄熱性能を高められるだけでなく、舗装も行える。これにより宇宙服にレゴリスが付着することを防げるとともに、宇宙船内や人体へのレゴリスの侵入を防止できる。また、月の重力が地球の6分の1であることを踏まえると、強度を上げれば樹脂でコーティングしたレゴリスを建材として使えると考えている。このレゴリスを建材として利用した建物は蓄熱体としても機能するため月面での作業者の活動をサポートできる可能性がある。

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