レゾナックが素材で挑む月面開発、寒すぎる月の夜に電力を確保するシステムとは?:素材/化学インタビュー(2/3 ページ)
近年、イーロン・マスク氏が率いる米国のスペースXや国内のispaceなどにより月面の開発が注目を集めている。そこで、月の砂であるレゴリスを蓄熱体として利用する「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」の開発を進めているレゾナックに話を聞いた。
熱シミュレーションの詳細
MONOist 今回の熱シミュレーションを詳しく教えてください。
西野崇行氏(以下、西野氏) 1972年に実施された有人月面着陸計画「アポロ14号」が観測した月面のデータをベースに有限要素法(FEM)による熱シミュレーションを行い、月面やレジンコーテッドサンド技術で樹脂をコーティングしたレゴリスで蓄積できる熱量を算出した。
最初の検討ではまず、月面上の温度推移の再現に取り組んだ。月面を模擬した温度や入熱/放熱条件などを設定して、レゴリスを樹脂でコーティングしない場合の熱シミュレーションを実施した。その結果、月面表層部のみが大きく温度変化し、月面内部(地下67cm)はほぼ温度変化しないという観測結果の傾向を再現することができた。このシミュレーションモデルを使い、夜間に月面表層部から出てくる熱量を算出したところ、ごくわずかな熱量しか出てこないことが分かった
同様の条件設定でレゴリスを樹脂でコーティングした場合の熱シミュレーションを行った。その結果、レゴリスの重さに対して6%の樹脂をコーティングし、20cm厚のブロック状にして月面表層に配置することで、夜間に取り出せる熱量が20倍に上がることが判明した。
取り出せる熱量が変わった理由は、月面表層部の断熱性を低下させたからだ。通常、月面表層部はレゴリスが砂状でゆるく堆積しており、断熱性が高く、月面内部と宇宙空間との間で熱移動しづらい状態にある。レゴリス粒子同士を樹脂で結合させ熱伝導のパスを作ることで、昼間に太陽からの熱を効率よく地中に伝え、夜間に効率よく放出させることができる。このため、夜間でも樹脂でコーティングした地表面はコーティングしていないエリアと比べて20〜30℃ほど暖かくなり、この温度を2週間持続する。
MONOist 月面でレゴリスに樹脂をコーティングする手法の構想を教えてください。
清水氏 あくまで構想だが、昼間の気温が高い時間に月面で樹脂を溶かして、それを専用ロボットのスクリューでレゴリスと混ぜて、締め固めるという手法を構想している。溶けた樹脂をスクリューで混ぜる作業はシンプルな構造の専用ロボットで対応できる見通しだが、締め固める作業は樹脂に熱を加えつつ硬化させなければならないためそれを行う装置に工夫が必要だと考えている。いずれも地球上の6分の1となる重力の影響も踏まえて計画を練っている。
MONOist 樹脂をコーティングしたレゴリスの蓄熱効果について教えてもらいましたが、改めて月面で蓄熱が重要な理由を教えてください。
清水氏 月面で蓄熱が大事な理由は夜間のエネルギー確保につながるからだ。月面の夜間は太陽光発電設備により電力を確保できないが、地表面の蓄熱が実現すれば熱電素子などを用いて熱を電力に変換することで電力を得られる可能性がある。現状は、燃料電池などを活用して、レゴリスや地中から取り出した水を分解し水素を抽出して発電するという手法が夜間の電力確保で主流の考えだが、燃料電池を月に運搬するのにはコストや手間がかかる。
そこで、レゴリス物理蓄熱エネルギーシステムを補助的に活用すれば、燃料電池を運ぶ量を減らせる可能性がある。また、地表面に蓄熱することで、越夜に急激に気温が下がるという状況を改善し、月面での作業員の活動に広がりを持たせられるかもしれない。
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