RFIDでオフィス家具を即見える化 イトーキが「Office 3.0」実現に一歩踏み出す:製造業がサービス業となる日
イトーキはRFIDを活用したソリューションを提供するRFルーカスに出資したことを発表した。
イトーキは2024年7月2日、RFIDを活用したソリューションを提供するRFルーカスに出資したことを都内の記者説明会で発表した。オフィス家具から利用回数データなどを収集することで、オフィス生産性向上のためのコンサルティングサービス「Data Trekking」の価値向上を図る。出資金額は非公開としている。
データドリブンなオフィス運用サポートを実現する「Office 3.0」
イトーキは現在、家具などプロダクト製造/販売で展開してきた既存事業から成長を図るため、より付加価値や競争優位性の高い事業の展開を推進している。従来の事業を「Office 1.0」と位置付け、空間ベースでのデザインソリューションや働き方に関するコンサルティングサービスを提供する「Office 2.0」、データドリブンなオフィス運用サポートを実現する「Office 3.0」へと成長のエンジンを加速する方針だ。
Office 3.0においてはオフィスで働く人や設備、家具のデータを集約したプラットフォームを構築し、AI(人工知能)によって企業ごとに最適なオフィスレイアウトを提案する仕組みを構想する。さらに、オフィスデータを活用したコンサルティングサービスや、オフィス勤務者や従業員向けのサービス、センシング家具の実用化などサービス開発も視野に入れる。
コンサルティングサービスについては、2024年2月にData Trekkingをサービス開始した。ビーコンでオフィス内の従業員の位置情報を可視化し、従業員や組織のパフォーマンスなどに関するデータを管理、収集できるようにする。主な顧客は企業規模を問わず、大きめのオフィス規模を持つ企業全般を想定する。現時点では、オフィスでの従業員の働き方に関心のある経営者や、オフィス運用担当者から関心が寄せられているという。
今回のRFルーカスへの出資は、RFIDタグをイトーキのオフィス家具に実装するとともに、Data Trekkingでこれまで扱えなかったオフィス家具データの可視化を目指すものだ。RFルーカスは商品の在庫管理業務などの領域で、UHF帯(Ultra High Frequency)のRFIDタグとリーダーを使い、複数のモノの所在を瞬時に可視化するロケーションマッピングやレーダー探索システム、ソリューションを提供する企業だ。
独自の電波位相解析技術によって、タグの位置情報を高精度に取得できる点などを強みとしている。ロケーションマッピングとレーダー探索システムによって、ピンポイントにRFIDタグを付与したモノを探し当てることができる。
イトーキは、オフィス家具にRFIDタグを搭載することで、家具ごとの個別識別情報に加えて設置場所や使用履歴などのデータの取得実現を狙う。これらのデータを活用することで、企業がより生産性の高いオフィスレイアウトを検討し、アジャイルに実行するためのデータを提供する。
イトーキ 商品開発本部 ソリューション開発統括部 ビジネス開発部 開発1課長の加藤洋介氏はオフィス家具の可視化を妨げる要因として、「製品のバリエーションが多く、使用期間も10年単位と長期に及ぶこともある。さらに家具の配置換えや、事業所をまたいだ移送などもあり、総じてモニタリング管理が難しい」と説明した。RFルーカスのRFIDタグとソリューションを活用することで、これらの解決を目指す。
例えば、人流データにオフィス家具のレイアウトデータを重ねることで、どのようなレイアウトにすれば人が集まるオフィスにしやすいか、生産性向上につながりやすいかなどを検討しやすくする。特定の場所で長時間座り、作業する人がいれば、疲れにくい椅子を導入するといった打ち手を講じられる。複数のデータを分析することで、ワークエンゲージメントの高い従業員が好むオフィス家具などを総務部などが把握し、買い替えなどの参考情報とすることも期待できる。さらにイトーキは、コンサルティングサービスと併せて展開することで、単なるデータ提供にとどまらず、顧客企業のオフィス活用の戦略構築も合わせて提供する。
さらにイトーキ 代表取締役の湊宏司氏は、「ユーザーの集中力維持を目指して開発した製品があったとして、実際のオフィスでそれが実現されているかを当社側で確かめることもできる。この意味で商品開発にも生かせる」とも説明した。
説明会では、区切られた複数の会議室にあるタスクチェア、ミーティングチェアに付与されたRFIDタグに対して、リーダーを使った瞬間読み取りとピンポイントで家具を探し当てるデモンストレーションを披露した。RFルーカス 取締役会会長 兼 研究開発本部長の上谷一氏は「将来的にはリーダーによる読み取りをロボットで自動化することも検討している」と語る。
湊氏は今回のRFルーカスへの出資の意義について、「今まではエリア単位やオフィス単位で出していたデータを家具単位まで解像度を上げ、高度なアセットマネジメントを提供することにチャレンジしたい。RFIDから始まるオフィス家具のIoT(モノのインターネット)化は当社としても、かなり取り組みたかったことで、その第一歩をようやく踏み出せたという気持ちだ。オフィス運用の在り方を変える挑戦だと思っている」と語った。
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