製品1個単位でCO2排出量が見えるように、RFIDが原材料から売り場までトレース:製造業×脱炭素 インタビュー(1/2 ページ)
エイブリィ・デニソンはUHF帯のRFIDタグを製品1個ずつに貼り付けて固有のデジタルIDを付与し、原材料や完成品の流通過程におけるCO2排出量を見える化するツールの提供を開始した。RFIDによる見るかの強みとは何か。担当者に話を聞いた。
現在、CO2排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラル実現に向けて、製造業をはじめ、産業界全体で取り組みが急ピッチで進んでいる。各社にとってCO2排出量削減に向けた第1のステップとなるのが、排出量の「見える化」であろう。どのプロセスからのCO2排出量が多いかが分からなければ、効果的な削減施策は立てようもない。
そのためニーズが高まっているのが、CO2排出量の見える化ツールだ。これに関連して注目したいのが、ラベル製品やRFIDソリューションなどを展開するAvery Dennison(エイブリィ・デニソン)が2022年6月に発表したリリースである。同社は、UHF(Ultra High Frequency)帯のRFIDタグを製品1個ずつに貼り付けて固有のデジタルIDを付与し、原材料や完成品の流通過程におけるCO2排出量を見える化するツールの提供を開始した。製品のサプライチェーン全体を可視化するコネクテッドプロダクトプラットフォーム「atma.io」の1機能として利用できる。
大きな特徴が、RFIDタグを活用することで、製品1個当たりでのCO2排出量を算定できるようにした点だ。製品単位で計測できるため、複数の製品をまとめて計測する場合と比べて、企業は事細かにサプライチェーン上の改善すべき点を洗い出し、修正できるようになる。エイブリィ・デニソンでRFIDソリューションを取り扱う部門のAvery Dennison Smartrac(エイブリィ・デニソン・スマートラック)は、UHF(Ultra High Frequency)帯のRFIDで世界トップシェアを持っており、その強みを生かしたツールとなっている。
エイブリィ・デニソン・スマートラック Market Development Directorの三井朱音氏は「物流のCO2排出量データは、製品が小売店に並ぶまでのデータを各ポイントで担当者が抜け漏れなく記録しなければいけない。個品にIDを付けて一度に多くの製品を読み取る仕組みがあれば、データを漏れなく計測できる。さらに、製品を満杯に積んだ輸送とそうでない輸送では、製品1個当たりのCO2排出量も変わるが、これらも見える化しやすくなる」とメリットを説明する。
さらに、固有IDの活用は消費者側にもメリットをもたらす。製品を購入する際に、より環境負荷の少ない製品を選ぶための判断材料として商品1つ1つのデータを利用できるからだ。例えば、産地が違うペットボトル飲料を手にした消費者は、どちらの商品の方が環境にやさしいのかを比較してから買えるようになる。こうしたアクションを起こすのは限られた消費者にとどまると思うかもしれないが、三井氏は「そもそも現状では、買うかどうか判断できるようにするための情報が消費者側にほとんどない」と指摘した。
固有IDでCO2排出量を管理
atma.ioの「atma」はサンスクリット語で“魂”という意味があり、「製品の本当の価値を伝えたい」(三井氏)という思いを表現したものだという。固有IDを原材料や仕掛品にも割り振って互いに結び付けることができれば、原材料から完成品までの流通過程に対して高いトレーサビリティーを持たせられる。
最近では特にアパレル業界などで、原材料の調達先にまで及ぶトラッキングを行うニーズが顕在化している。atma.ioでは環境負荷の測定手段として同業界で活用されている「ヒグ・インデックス(HIGG Index)」を示すことで、商品への環境への影響度も知ることができる。さらに原材料にもIDを割り当てて、RFIDから読み取った情報と併せて記録することで、原材料時点からの生産情報と完成品を一対一でひも付けられる。
atma.ioでは、RFIDが付与されたサプライチェーン上の製品の移動情報が更新されるたびに、固有ID別にCO2排出量が自動的に加算されていく。これによって、原材料の流通過程から小売店の店頭に製品が並ぶまでのカーボンフットプリント(CFP)の情報が、リアルタイムで確認できる。リアルタイム更新のため、企業は排出量削減に向けたアクションを早期に実行しやすい。CO2排出量は製品の重さや飛行機やトラックなどの輸送手段、輸送距離なども勘案した上で算出される。
製品の流通ステータスの基準となる「配送イベント」は、初期状態ではサプライチェーン上のトラッキングの仕様であるEPCIS(Electronic Product Code Information Services)にのっとって設定されている。三井氏は、「配送イベントの名前や取るべきデータをEPCISという業界標準に合わせているので、その意味では、APIなどを通じて他企業とのデータ交換を行いやすい仕様となっている」と語る。導入企業の希望次第で配送イベントのカスタマイズも可能だ。
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