シーメンスは2024年6月21日、製薬業界向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)動向とそれに向けたシーメンスの戦略について説明を行った。
製薬業界は、プロセス生産方式とディスクリート生産方式が組み合わさった形となっている場合が多く、さらに厳密な法規制により縛られているため、非常に複雑な構造となっている。その一方で「DXについてはディスクリート型の製造業より遅れているケースも多い。ドイツでは『Pharma 4.0』として、製薬業界でもインダストリー4.0を実現しDXを推進する動きが出ている」とシーメンス デジタルインダストリーズ 産業機械営業統括部 統括部長 兼 医薬産業事業統括部 部長の濱地康成氏は語る。
その中で、シーメンスが訴えているのが「デジタルツイン」「ペーパーレス生産」「データインテグリティ」だ。特に製薬業界では、医薬品の製造管理と品質管理のガイドラインであるGMP(適正製造規範)要件への対応が求められており、これらは各国の法令で定められている。これに対応するためには、データインテグリティの実現が必要になる。データインテグリティとは、あらゆるデータが完全で、一貫性があり、正確であることが保証されていることを意味する。
シーメンスでは、これらを実現するために、IT(情報技術)からOT(制御技術)までデータを統合したデジタルスレッドの実現を提案。これにより、データ改ざんがないことが保証されたデータ活用が可能となる。濱地氏は「シーメンスはCADなどをベースにエンジニアリングチェーンでのデータ活用に強みがある。デジタル化によりプロセスをつないで人手による作業をなくすことで、一貫したデータの収集や蓄積、正当性の保証などを行うことができる」と語る。
デジタルスレッドによるデータ統合が進むことで、シミュレーションの活用をプロセス全体で行えるようになる。シーメンスでは、製薬業界において原薬の合成から経口吸収リスク解析までモデリングによるシミュレーションを可能とするソリューション「gPROMS」を用意し、実際に経口での影響を想定しながら製薬開発を行う導入事例なども出てきているという。「デジタルツインによりシミュレーションの力をさまざまな薬品開発に活用できる」と濱地氏は述べている。
さらに薬品の攪拌機や製剤の造粒、コーティングなど製造工程においてもデジタルツインを活用しリアルタイムでシミュレーションで製造工程を最適化するような取り組みも広がってきている。「製薬業界では、デジタルツインを活用してリアルタイムでシミュレーションを行うソリューションの導入が増えている」と濱地氏は語っている。
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