生成AIで独自の価値創出を、中外製薬が狙うR&Dプロセスの革新:人工知能ニュース
中外製薬は同社のDX推進に関する説明会を開催した。本稿では同社の生成AI活用に関する発表を抜粋して紹介する。
中外製薬は2023年9月29日、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に関する説明会を開催した。本稿では同社の生成AI(人工知能)活用に関する発表を抜粋して紹介する。
2023年8月から全社展開を開始
中外製薬では2030年までに「ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることをビジョンとして掲げており、そのためにDX(デジタルトランスフォーメーション)による成長戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を策定し、実現に向けた取り組みを進めている。高度化した個別化医療サービスなど革新的なサービスの提供や、R&Dプロセスの変革によるアウトプット増大、業務自動化による生産性向上、デジタル基盤の強化などに取り組んで、ビジョンの実現を目指す。生成AIに関する取り組みも、こうしたDX戦略の一環として展開している。
現在、中外製薬はOpenAIが提供するChatGPTのトライアルを実施しており、活用のための知見を蓄積している。同社はマイクロソフトが提供する「Azure OpenAI Service」を使ってChatGPTの利用環境を構築して、2023年5月にPoC(概念実証)を開始した。その後、知的財産や著作権の侵害や偏りのあるアウトプットの防止、個人情報や機密データの漏えいなどChatGPT活用で生じ得る6種類のリスクへの対策を盛り込んだルールを定め、2023年8月から全社展開を開始した。
なお、中外製薬はマルチクラウド戦略を推進しており、さまざまな生成AIサービスを試験できる環境作りも進めているという。
中外製薬 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部長の金谷和充氏は「生成AIの活用を推進する上では、まずガイドラインなどの仕組みを作った上で推進体制を構築することが大事だ。その上で、生成AI活用に必要なデータを集約した基盤や目的に応じて生成AIサービスを選択できる環境などを提供することで、事業価値創造につながる取り組みが可能となる」と説明した。
ChatGPTのユースケースはさまざまなものが想定される。中外製薬は初期のユースケースとして、論文の取得やアブストラクトのさらなる要約、プログラミング業務の効率化、アンケート結果の分析高速化といった領域でのChatGPT活用による一定の成果を見込む。
これらに加えて、各部門が持つ社内データとChatGPTを連携させることで、「SOP(標準作業手順書)検索」「システムや機器、ソフトウェアの利用方法確認」「問い合わせ対応」「社内外説明資料/教育資料のドラフト作成」などが実現できる可能性がある。さらに全社的な基盤づくりが必要になるが、グループ全社の情報の横断的な検索や、他社の動きや規制動向の情報収集への活用なども考えられる。
ただ、他企業でも比較的取り組みやすい業務効率化などの取り組みは、自社独自の競争力を必ずしも高められるわけではない。特にR&D領域での活用を念頭に置きつつ、金谷氏は「独自の競争力を高めるため、将来的にはデータに基づくインサイトの抽出や意思決定支援などに生成AIを用いたい」と意気込みを見せた。
R&D領域での想定活用事例として、研究者の過去知見を再利用できる仕組みづくりや、基礎研究の成果を実用化につなげる橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)、治験実施計画書の作成、医薬品製造や開発のプロセスであるCMC(Chemistry, Manufacturing and Control)業務の支援などを取り上げた。一方で、そうした仕組みづくりを実現するには時間がかかるため、「まずは社内で今まで埋もれていたデータを有効活用できる仕組みを作る」(金谷氏)としている。
金谷氏は社内での生成AI活用における今後の課題として「生成AIで分析可能なデータを作成できるかが重要な課題の1つとなる。例えば、研究者の過去知見の再利用という用途では、社内チャットなどオンライン上のコミュニケーションのデータが役立つ可能性があるだろう。データを整理して利用しやすい環境を作ることが大事になる」と説明した。
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