新しく生まれた神経の回路への組み込みにより、トラウマ記憶が減弱する:医療技術ニュース
九州大学は、マウスを用いた実験で、海馬の神経新生の増加と神経回路への組み込みがトラウマ記憶の忘却を促し、PTSDに類似した症状を減弱させることを明らかにした。新たなPTSD治療法への応用が期待される。
九州大学は2024年5月9日、マウスを用いた実験で、海馬の神経新生の増加と神経回路への組み込みがトラウマ記憶の忘却を促し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に類似した症状を減弱させることを明らかにしたと発表した。
まず、マウスに強いショックを2回与えることで、恐怖記憶消失の障害、不安の増大、トラウマを経験した場所と異なる状況でも恐怖を感じる汎化など、PTSDに類似した症状を発現させた。
次に、マウスのケージにランニングホイールを設置して自発運動を促した。自発運動は、海馬の神経新生を増加させると報告されている。ショックを与えた後、マウスに4週間自発運動させると、トラウマ記憶とPTSDに似た症状が減弱した。
続いて、光遺伝学的手法と薬剤依存的に遺伝子を組み替える手法を用いて、神経の数を変えずに新生神経の突起を伸長させたところ、トラウマ記憶とPTSD症状が減弱した。神経新生の回路への組み込みが促進されて、海馬神経回路のリモデリングが生じ、既存の記憶が上書きされたためと考えられる。
また研究グループは、トラウマ記憶だけでなく、コカインを用いた薬物摂取の場所状況記憶の忘却にも、海馬の神経新生の操作が有効であることを確認している。
今回の研究では、運動や薬剤が神経新生を増加させ、それがPTSDや薬物依存の治療ターゲットになり得ることが示された。新たなPTSD治療法や、薬物依存症治療法への応用が期待される。
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