セレンディピティなデジタル基盤「Serendie」が三菱電機のDX戦略をけん引する:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
三菱電機はオンラインで開催した経営戦略説明会「IR DAY 2024」において、2021〜2025年度の中期計画の進捗状況を説明するとともに、今後のDX戦略をけん引するデジタル基盤「Serendie」を発表した。
2030年度のSerendie関連事業は売上高1.1兆円、営業利益率23%へ
今回のIR DAY 2024で注目を集めたのは、2023年4月に設立したDXイノベーションセンターが中心になって構築したデジタル基盤のSerendieだ。
Serendieは、セレンディピティ(Serendipity:偶然の巡り合いがもたらすひらめき)と、デジタルエンジニアリング(Digital Engineering)を掛け合わせた造語である。デジタル基盤であるSerendieを核に、多様な人材との出会いとさまざまなデータを基に得られた新たな気付きから、技術力と創造力により、将来に向けた新たな価値の持続的な創出を目指すとしている。
三菱電機の強みは事業部制に基づくさまざまなコンポーネントやシステム、サービスにある。FA機器や鉄道電機品、空調機器、昇降機、電力機器など各事業部が扱う製品を基に、それらにひも付くシステムやサービスを展開するため独自の基盤を構築してきた。しかし、それぞれの事業部が独自に構築してきたこともあって仕様が異なるため、これらの基盤を横断したサービスの提供は困難だった。
Serendieの機能は、これら各事業部独自の基盤で収集したデータを分析するデータ分析基盤と、各基盤の連携を可能にするWebAPI連携基盤で構成されている。データ分析基盤とWebAPI連携基盤は既に完成しており、今後は2024年度内をめどにサービス提供時の収益化で重要な役割を果たすサブスクリプション基盤と、ユーザー管理のための顧客情報基盤の構築を進める。データ分析基盤によって、各事業部独自の基盤の分析機能を強化しつつ、WebAPI連携基盤で事業部を横断するだけでなく社外のパートナーとの共創によって生み出す新たなサービス提供につなげていく方針だ。三菱電機 常務執行役 CSO兼CDOの武田聡氏は「Serendieを構成する4つの基盤は汎用的なツールを用いることにより短期間で構築することができた。各事業部独自の基盤との連携にも問題はない」と語る。
Serendieを構築したDXイノベーションセンターは、事業部横断型をはじめ新たなサービスの創出に向け三菱電機社内のマインドセットを変える活動を推進している。「循環型デジタルエンジニアリングを目指し、事業創出ではプロダクト中心から顧客中心へ、開発スピードではウオーターフォール開発からアジャイル開発へ、事業モデルでは機器販売モデルからサービスモデルへの移行を進めている」(武田氏)という。
マインドセット改革と循環型デジタルエンジニアリングを加速するためDXイノベーションハブとなる共創空間「Serendie Street」も構築している。横浜では、新横浜地区の横浜ダイヤビルディング、みなとみらい地区の横浜アイマークプレイスを「Serendie Street Yokohama」として約500人のデジタル人材を集約している。2025年1月には社外パートナーとの共創が可能なスペースを用意する計画だ。さらに、Serendie Streetの取り組みは横浜から国内外へ広げていく方針である。
Serendie Streetに代表されるDX人材は、2023年度の6500人から2030年度に2万人まで増やしたい考えだ。「増員分の7割は社内人員のリスキリングなどを想定しているが、残りは外部からの人員採用とM&Aを想定している」(武田氏)という。
今回のSerendieの発表に合わせて、三菱電機内でのSerendie関連事業の売上高と営業利益率の見通しも示した。2023年度が売上高6400億円、営業利益率16%であるのに対し、中期計画最終年度の2025年度は7700億円/21%、2030年度は1兆1000億円/23%まで伸びるという。
なお、Serendie関連事業は、各事業部が展開するハードウェアを中心とした「データ収集コンポーネント」と、これらのコンポーネントから収集するデータを活用したソリューションとなる「データ活用ソリューション」に分かれる。武田氏は「2023年度時点で、データ収集コンポーネントの方がデータ活用ソリューションよりもかなり多いという状況だが、2030年度にはこれを逆転させる。Serenedieの活用によって高収益なサービスを生み出し、成長させていきたい」と述べている。
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