日本人の腎細胞がんの7割に未知の発がん要因が存在することを発見:医療技術ニュース
国立がん研究センターらが参画した国際共同研究グループが、過去最大の腎細胞がんの全ゲノム解析を実施した。日本人の腎細胞がんの7割に、他国ではほとんど見られない未知の発がん要因が存在することが分かった。
国立がん研究センターと東京大学医科学研究所は2024年5月14日、日本を含む11カ国が参画した国際共同研究で、過去最大の腎細胞がんの全ゲノム解析を実施したと発表した。日本人の腎細胞がんの7割に、他国ではほとんど見られない未知の発がん要因が存在することを明らかにした。
腎細胞がんの60〜75%を占める淡明細胞型腎細胞がんは、発症頻度が地域ごとに大きく異なることが知られている。今回の研究では、発症頻度の異なる11カ国から淡明細胞型腎細胞がん962症例のサンプルを収集し、全ゲノム解析を実施した。
がん細胞のゲノムに発生するさまざまな変異は、その要因によって異なるパターンを示し、そのパターンは変異シグネチャと呼ばれる。研究グループは、全ゲノム解析データから突然変異を検出して点変異シグネチャ(SBS)を抽出し、地域や臨床背景ごとに変異シグネチャの分布に差があるかを解析した。
その結果、他国では2%程度しか検出されなかったSBS12が、日本の淡明細胞型腎細胞がんの72%の症例で検出された。また、SBS12を誘発する要因は不明だが、遺伝子変異パターンから外因性の発がん物質、つまり環境要因である可能性が高いことが示された。
加齢、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病などは、淡明細胞型腎細胞がんの発症危険因子だ。今回の研究では、加齢と喫煙で相関する変異シグネチャが検出され、喫煙が直接がんゲノムに傷を付ける因子であることが分かった。一方、肥満、高血圧、糖尿病などの危険因子は、特定の変異シグネチャとの関連は見られず、間接的に関与することで、複合的に発がんに寄与している可能性が示唆された。
また、136の遺伝子で、合計1913のがんドライバー変異が観察されたが、各国の変異頻度に大きな差は見られなかった。
淡明細胞型腎細胞がんは中欧や北欧に多く、日本でも近年増加傾向にある。地域ごとに発生頻度が異なる要因は不明だが、今後SBS12の原因物質を同定することで、日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発が期待される。
今回の研究は、英国がん研究基金と米国がん研究所が設立した、Cancer Grand Challengeが進める国際共同研究(Mutographs project)の一環で、英国サンガー研究所やWHO国際がん研究機関も参加している。
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