リチウムイオン電池の高容量化を実現するため横国の藪内教授と共同研究を開始:材料技術
3DCは、開発/販売する導電助剤用GMSを使用してリチウムイオン電池のさらなる高容量化を実現するために、リチウムイオン電池向け正極材料について日本有数の実績を持つ横浜国立大学 教授の藪内直明氏との共同研究を開始した。
蓄電/発電デバイスの電極に使用するカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」を開発する東北大学発のベンチャー企業である3DCは2024年5月15日、リチウムイオン電池向け正極材料について日本有数の実績を持つ横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科 教授の藪内直明氏との共同研究を同年4月に開始したと発表した。今回の共同研究を通して、1回の充電で従来よりも長時間使える高容量なリチウムイオン電池の開発に向けて検討を進める。
共同研究の内容
共同研究ではリチウムイオン電池の高容量化を目指して「高電圧リチウムイオン電池の実現」と「リチウムイオン電池電極の高密度化を実現」を行う。
「高電圧リチウムイオン電池の実現」では、藪内氏が開発した最先端の高電圧向け正極材料と、3DCの「導電助剤用GMS」を組み合わせることで、従来よりも高い電圧まで充電できる高容量なリチウムイオン電池の実現を目指す。導電助剤用GMSは「劣化に強い」「弾性変形することで電極の構造変化を吸収できる」という特徴があるため、高電圧リチウムイオン電池の実現に貢献できると期待している。
リチウムイオン電池は、充電電圧が高いほど容量が大きくなるが、従来の導電助剤は電圧が高いと劣化しやすいため、電圧が高くても耐えられる導電助剤が求められており、このニーズに応えるため、高電圧リチウムイオン電池の実現を目標に掲げている。
「リチウムイオン電池電極の高密度化を実現」では、藪内教授が開発した最先端の正極材料と、3DCの導電助剤用GMSを組み合わせることで、電極を高密度化するとリチウムイオン電池の性能が落ちてしまうという課題を解決することを目指す。
現在、電子デバイスの小型化や電気自動車(EV)の軽量化に伴い、小型でもより多くのエネルギーを蓄積できるリチウムイオン電池が求められている。このような高エネルギー密度のリチウムイオン電池を実現するには、電極に正極材料をできるだけ多く充填する必要があるが、電極を高密度化すると電池の性能が落ちてしまうという課題があり、今回の研究ではその解決に乗り出す。
共同研究を開始した背景
国内外では、持続可能な社会の実現に向けて、脱炭素の実現に多くの関心が寄せられている。脱炭素を実現するための手段の1つに「社会の電動化」があり、電動化の鍵として期待されているのがリチウムイオン電池だ。リチウムイオン電池は、他の二次電池よりも小型かつ長寿命にできることから、EVの普及や再生可能エネルギーの導入拡大において重要な役割を果たすと考えられている。
リチウムイオン電池の性能の中でも特に重要なのが、1回の充電でためられる電気の量(容量)だ。リチウムイオン電池は1991年に商用化されて以来、その容量を決定づける活物質(正極材料など)を中心に進化してきた。
脱炭素社会の実現には、現状よりもさらに高容量の電池が必要だ。しかし、リチウムイオン電池には「容量を向上させようとすると寿命や入出力特性といった別の特性が低下する」というジレンマが存在するため、研究は一筋縄ではいかなかった。このトレードオフ解消に貢献できると考えられているのが、3DCが開発する次世代炭素材料のGMSだという。
リチウムイオン電池では、電極の導電性を上げるため、活物質の近くに導電助剤と呼ばれる材料を分散させる必要がある。3DCは、GMSを導電助剤としてアレンジした導電助剤用GMSを開発/販売している。今回は、導電助剤用GMSを使用してリチウムイオン電池のさらなる高容量化を実現するため、リチウムイオン電池向けの高電圧正極材料について豊富な研究経験を有し、横浜国立大学の固体エネルギー化学研究室に所属する藪内直明氏と共同研究を開始するに至った。
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