設計者のためのCAEとは? 「逆算のCAE」の必要性と実践に向けて:設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(3)(3/3 ページ)
連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。連載第3回では、設計に必要な解析技術を開発し、設計者が使用できる環境を構築する「逆算のCAE」のアプローチについて解説する。
CAEの高速化のためのヒント
逆算のCAEを実施するには、CAEの効率化と高度化が必要であることをお分かりいただけたと思います。
まず先に、CAEの高度化についてです。CAEの高度化は、解析に対する高い専門性が必要です。CAEは今後もさまざまな技術と結び付き、形態を変え、進化を続けます。モノづくりにとって必要不可欠な道具になっていくことは間違いありません。時間はかかりますが、解析専任者を育成するか、信頼できるパートナーとの関係を構築しておくことは重要です。
解析専任者の役割は大きく変化します。これからは、AI(人工知能)、データサイエンス、IoT(モノのインターネット)などの知識が必要となるでしょう。特定のCAEソフトウェアの機能や解析手法を知っているだけでは、逆算のCAEを行うことは不可能です。解析専任者はCAEコーディネーターとしての役割を担うことになります。
続いて、CAEの効率化(高速化)についてです。最近、CAEにもAIの波が押し寄せて「サロゲートAI」などの名称でいくつかの製品が出てきました。これは文字通り、たくさんの解析結果をAIに学習させ、新規の解析に対して爆速で答えを出す、というものです(図3)。
「サロゲート」の意味は「代理」です。CAEをAIで代行させようというわけです。例えば、自宅から会社に行く場合、徒歩で行く、その代理として自転車で行く、またその代理としてクルマで行く、など代理となる方法はいろいろあります。代理となる方法は一つではありません。
何をCAEの代理とすればいいのか。科学の歴史に重ねて考えてみます(図4)。
- 第1の科学−事件科学:実験や経験に基づいた科学。ベンジャミン・フランクリンの雷実験など
- 第2の科学−理論化学:ニュートンの法則、マクスウェルの方程式など、理論中心の科学
- 第3の科学−計算科学:複雑な現象をシミュレーションにより予測する科学
- 第4の科学−データ科学:実験、理論、計算から得られたデータを統合
一般的には、第4の科学に向かうほど精度は向上します。
CAEは計算科学です。そして、それがAIと融合して、データ科学へと昇華しようとしています。サロゲートは「箱」です。何か入れれば、答えが出てくる箱です。筆者はこの箱のことを「カプセルCAE」と呼んでいます。
箱の中は、実験式や理論式を組み込んだ「Excel」でも、応答曲面でも、AIモデルでも何でもいいのです。ただ一つの条件は、正確性が担保された設計者が必要な情報が得られることです。これくらいの大胆なことを考えないと、CAEがキャズムを乗り越えることはできないでしょう。
第1〜4の科学を見てみると、それぞれに専門家がいることが分かります(図5)。実験の専門家、理論の専門家、解析の専門家、そして、データの専門家(データサイエンティスト)です。精度の高いサロゲートの箱を作るためには、彼らのコラボレーションが必要です。まさに「サロゲート・アベンジャーズ」ですね。
CAEのカタチがこれほどまでに変わると、その教育方法もガラリと変わります。教育体系を根本から見直す必要があります。この連載のテーマは「設計者CAE教育の再設計」ですので、次回はCAE教育のグランドデザインの必要性についてお話します。 (次回へ続く)
著者プロフィール:
栗崎 彰(くりさき あきら)
1958年生まれ。金沢工業大学 建築学科 修士課程修了。2022年に合同会社ソラボを設立。1983年より米SDRC、仏Dassault Systemes、サイバネットシステムを経て40年間にわたり3D設計、CAEのコンサルティングに従事。数多くの企業で、3D CAD、CAEを活用した設計プロセス改革や設計者のためのCAE運用支援などを推進。技術系Webサイトで連載、機械学会、公設試、大学などで講演多数。著書に「図解 有限要素法はじめの一歩(講談社)」および同実践編、「バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”(共著)(日刊工業新聞社)」がある。
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