カシオが推進する設計者CAEの全品目展開、その実践と効果:設計者CAE事例(1/4 ページ)
カシオ計算機は、現在全品目の製品開発において設計者CAEのアプローチを展開し、着実に期待する効果へとつなげている。どのようにして設計者CAEを全品目の製品開発に適用していったのか。担当者に話を聞いた。
設計者自身が設計業務の中でCAEツールを活用し、フロントローディングによる品質の早期作り込みを実現する設計者CAE。その重要性が叫ばれて久しいが、忙しい設計者が日々の実務の中で実践することは簡単なことではない。実際、設計者CAEを取り入れた製品開発を推進しようとしたものの思うように定着せず、十分な効果を生み出せなかったという現場も少なくない。
そうした中、一部の品目から段階的に設計者CAEの活用に取り組み、現在、全品目の製品開発において設計者CAEのアプローチを展開し、着実に期待する効果へとつなげているのが、カシオ計算機(以下、カシオ)だ。
全品目とは、腕時計から電子楽器、プロジェクター、電子辞書、一般電卓、関数電卓、ラベルプリンタなどに至る、カシオが手掛ける大小さまざまなプロダクトを意味する。どのようにして、設計者CAEを全品目の製品開発に適用していったのか。その取り組み内容について、カシオ社内で設計者CAEの水平展開を推進する同社 技術本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 機構技術開発室 リーダーの遠藤将幸氏に話を聞いた。
カシオによる設計者CAE推進の歩み
カシオにおける設計者CAEの全品目展開は、2018年のデジタルカメラ事業からの撤退に端を発する。それまでの同社組織では、品目ごとの縦割り構造をとっており、一部でCAEツールを活用した解析を行っていたが、それはあくまでも品目ごとの取り組みでしかなく、ノウハウの蓄積などもサイロ化されていたという。
2018年にデジタルカメラ事業から撤退し、品目縦割りの組織構造が廃止されると、当時デジタルカメラの開発に携わっていた設計者たちは、コンシューマー製品の設計部隊に統合されることとなった。また、これと併せて、遠藤氏が所属する機構技術開発室の中でCAE技術開発グループが立ち上がり、これまで品目ごとにバラバラだったCAEの活用ノウハウなどを集約し、設計者CAEの水平展開を推進する方向へとシフトしていった。
「デジタルカメラ事業の中では2010年ごろからCAEツールの活用を開始しており、私自身もデジタルカメラの設計開発の中で構造解析などに取り組んでいた。それがコンシューマー製品を横断するような組織に統合され、CAE技術開発グループが立ち上がったことで、他の品目に対してもCAEによる解析を適用していく方向へと進んでいった」と遠藤氏は振り返る。
2018年から開始された他品目への展開では、CAE技術開発グループが中心となり、一部品目の設計者を対象にしたCAE教育をスタート。これと併せて、2019年ごろから各設計室への配属が決まった全ての新入社員に対するCAE教育も開始した。
CAE活用の他品目展開を始めた2018年当時は、まだ「G-SHOCK」などに代表される腕時計への展開は進んでいなかったが、2020年に入り現体制へと移行し、CAE活用も腕時計を含む全品目へと展開され、全ての設計者に対してCAE教育を行うようになる。
「2020年の段階では、CAE技術開発グループがいわゆる解析専任者の立場で設計者に対してCAE教育を実施しつつ、量産設計に関わる解析を担当していた。この当時、既にCAEを活用できる設計者も出始めていたが、基本的に設計者の皆さんには簡単な解析のみを実施してもらう形で進めていた」(遠藤氏)
そして、2022年に入ってからは、これまでの取り組みが実ったこともあり、各設計室の中に落下解析などを含めた上級レベルの解析を行える設計者が育ち、量産設計における解析の部分は各設計室の設計者が実施するという体制にまでもっていくことができたという。「これで設計者自身によるCAEの活用、フロントローディングを実践できる体制がひとまず整ったと考えている」と遠藤氏は手応えを語る。
その一方で、遠藤氏がリーダーを務めるCAE技術開発グループのメイン業務は、設計者からのCAE活用に対するさらなる要望対応や、解析負荷の軽減などにつながる技術構築へとシフト。「ここで新たに構築した技術を、各設計室に棚卸して量産設計に適用することで、設計者のニーズに即したさらなるCAE活用につなげていく」と遠藤氏は説明する。
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