カシオが推進する設計者CAEの全品目展開、その実践と効果:設計者CAE事例(2/4 ページ)
カシオ計算機は、現在全品目の製品開発において設計者CAEのアプローチを展開し、着実に期待する効果へとつなげている。どのようにして設計者CAEを全品目の製品開発に適用していったのか。担当者に話を聞いた。
設計者CAEの実践で、金型改造費や改造回数、量産中の問題発生率が半減
全品目における設計者CAEの適用、その実践を支える体制が整備されたことで具体的にどのような効果が得られたのか。遠藤氏は、直近で量産が立ち上がった電子ピアノと関数電卓の開発事例を基に説明した。
まず、設計者による解析の実施項目として、電子ピアノの開発では、譜面立ての強度、ピアノが倒れてしまった際の衝撃強度、構造的にも注意が必要なスピーカー周辺の強度、全体のねじれといったさまざまな解析を実施。同様に、関数電卓の開発では、事故落下や水平落下、液晶部分に対する加圧、本体の折り曲げなど、広範な解析を設計者自身が行ったという。
そして、実際に得られた効果について、遠藤氏は「こうしたさまざまな解析を設計者自身が設計業務の初期段階で行う、フロントローディングの実践によって、金型の改造費や改造回数の削減、量産中に起こる問題の発生率の低減などの効果につながった。実際、設計者CAEを適用していなかった機種との比較では、いずれも50%以上の削減効果が得られた。各設計室の中で設計者がCAEを活用し、フロントローディングを実践していくことによる効果が確実に出てきている」と述べる。
ちなみに、設計者CAEの本格展開に着手する以前は、基本的に実機試験を何度も繰り返しながら品質を高めていくアプローチがとられていたが、CAEツールを活用するようになってからは、事前に解析を行い設計品質を高めておくことで、実機試験をわずかな回数でクリアできる確率が飛躍的に高まったという。
「自分が設計したものが今どのような品質レベルにあるのか、これまでは実機を作るまで分からなかった。また、実機試験で部品が壊れてしまった場合、設計が原因なのか、成形時の問題なのか切り分けができず、『とにかく対策する』という話になりがちで、それで製品の質が本当に上がるのかという議論もあった。そこを的確に、設計段階で判断するためには、CAEを活用したフロントローディングが必要だという認識を各設計室の設計者たちはもっている」(遠藤氏)
また、解析結果や設定条件などの解析関連のデータは、各設計担当者のローカルPCで保存するのではなく、SPDM(Simulation Process and Data Management)システムで管理、共有しているという。
「かつてのような属人的な管理から脱却し、誰でも解析結果などの情報にアクセスできる環境を整え、その活用を進めている。例えば、品目は違うが参考になる別品目の解析結果があれば、該当するデータのURLを送るだけで共有/閲覧できる。また、将来的には、SPDMシステムに蓄積された解析結果の数値などをうまく活用して、AI(人工知能)/機械学習による自動判断、自動解析などの実現につなげたいと考えている」と遠藤氏は説明する。
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