設計者がフロントローディングという怪物に立ち向かうための“3つの武器”:構造解析、はじめの一歩(2)(1/3 ページ)
「構造解析」を“設計をより良いものとするための道具”として捉え、実践活用に向けた第一歩を踏み出そう。第2回は、いったん技術的な話から離れて、CAEの位置付けとその重要性についてあらためて理解を深める。
はじめに
イソップ寓話(ぐうわ)の『3人のレンガ職人』を知っていますか? 行動する意義を理解することによって仕事や作業のやる気に差が出てくる、というお話です。同じ仕事や作業に、消極的に取り組むのと、積極的に取り組むのとでは、成果と将来に大きな差が出る、という教訓(説教ともいいます)を伝えるものです。
設計者を対象としたCAEの講習会で、筆者はよく「なぜ解析をするのですか?」という質問を投げ掛けます。すると、多くの場合「仕事のプロセスでCAEをやることが決められているから」や「設計審査会(DR)の添付資料として義務付けられているから」といった受け身ともとれる理由が返ってきます。
それは設計者がCAEに対して「受け身」なのではなく、そもそも“CAEの意義”をしっかりと理解していないからです。CAE推進サイドの説明不足ともいえます。
構造解析がなぜ必要なのか、しっかりと理解しておくことこそが“構造解析のスタートライン”です。会社に対してCAEソフトウェアの予算取りをする際にも背景として使えるロジックです。
今回、技術的な話はありません。構造解析とは何の関係もない政府や株銘柄の話が出てきて少々退屈かもしれません。しかし、CAEの位置付けと重要性を理解しておくことは、構造解析ツールの予算申請や経営層の方々の説得に必要なことですので、どうか最後までお付き合いください。
フロントローディングの意義とその方法
フロントローディングとは、「前倒し」のことです。もうだいぶ使い古された感がある言葉です。皆さんも耳にしたことがあると思います(図1)。
横軸は製品開発のプロセスを表します。時間軸です。縦軸はコストです。コストは原材料費の他、時間の費用換算も含まれています。
フロントローディングの効果を説明するために、グラフに2つのカーブを加えます。1つ目は「設計変更のしやすさ」を概念的に表したものです。設計製造プロセスが進むにつれて設計変更はどんどん難しくなっていきます。2つ目は「設計変更に要するコスト」を概念的に表したものです。設計製造プロセスが進むにつれて設計変更に要するコストはどんどんと高くなっていきます。
時として、製品が世の中に出てしまってから設計変更が必要になる場合があります。「リコール」です。その製品カテゴリーは家電製品から自動車にまで及びます。テレビ放送で製品の回収をお願いして、回収、修理などを考えると、そのコストは計り知れません。
図1のグラフに「設計作業量」のカーブを描きます。企画や基本設計の間は、設計作業量はそう多くありませんが、詳細設計や試作評価に向けてどんどん設計作業量は増加し、ピークを迎えます。このピークの近辺で、設計変更が生じることを考えてみましょう。設計変更はある程度行いにくいものですし、それにかかるコストも少なくありません。
設計変更がしやすくて、設計変更のコストが低いのは、言うまでもなく設計の初期段階です。設計作業量のピークをググッと前側に移動できれば、設計変更はしやすく、設計変更に要するコストも低くなります。
フロントローディングとは、最もコストに影響を与える時期に、質を高める努力をするということです――。
と、ここまでがフロントローディングの“リクツ”です。問題は「どうやって」これを実現するかです。
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