設計者がフロントローディングという怪物に立ち向かうための“3つの武器”:構造解析、はじめの一歩(2)(2/3 ページ)
「構造解析」を“設計をより良いものとするための道具”として捉え、実践活用に向けた第一歩を踏み出そう。第2回は、いったん技術的な話から離れて、CAEの位置付けとその重要性についてあらためて理解を深める。
仮想世界での試作、評価、検証
フロントローディングは、詳細設計の時に必要な試作や実験による性能の評価、動作検証を設計の初期段階にやってしまおう、ということです。その時期であれば設計変更に有利ですからね(やりやすく/コストも安いです)。
問題となるのは、それを「誰がやるか」ということです。1ページ目で示した図1からも分かるように、設計者の負担が劇的に増えることになります。設計者を丸裸で荒野に放り出すことになります。この理不尽な状況を打破するためには、設計者にフロントローディングという「モンスター」と闘うための武器を与えてあげる必要があります。
その武器こそが「シミュレーション」です(図2)。
1.3D CADは形状の仮想試作
3D CADはいまや設計の必須ツールです。3次元で仮想世界に形状を作ることは、「形状の仮想試作」といえます。3次元で形状を表現することによって、重量、重心位置、干渉などを確かめることができます。
2.CAEは性能の仮想評価
3Dモデルをベースに解析を行うことができます。「性能の仮想評価」です。解析を行うことによって、変形や応力、振動数などを確かめることができます。
3.機構解析は動作の仮想検証
3次元のアセンブリモデルがあれば機構解析を行うことができます。「動作の仮想検証」です。機構解析を行うことによって、可動部品の速度やジョイント部の反力を知ることができます。それを基にして疲労限度を推定することも可能でしょう。
3D CADをシミュレーションというカテゴリーに含めるのは、不自然と思えるでしょうが、「シミュレーション」を「仮想的に○○する」くらいに広く解釈していただければと思います。
多くの製造業の会社が、3D CADや解析ソフトウェアにかなりの投資を行っているのは、フロントローディングというモンスターに立ち向かうための武器を、勇者である設計者に与えるためです。
これらの武器は組み合わせることで効果を発揮します。合わせ技です。
3D CADとCAEがあれば、単品部品の検討ができます。3D CADと機構解析があれば、組み立て性能の検討が行えます。そして、CAE(構造解析)と機構解析があれば、動作の検討が可能です。
シミュレーションを使うことによって、本来であれば物理的にモノがないとできない多くのことが、設計の初期段階で検討できるようになります。もちろん設計者には、設計の検討に不可欠な知見が必要となります。その知見の質と量こそが設計者のスキルそのものということになります。シミュレーションのためのいろいろなツールがありますが、それらは設計者の設計能力をサポートするものです。設計能力そのものを向上させるものではありませんので、誤解のないようにしてください。
突然ですが、筆者にも構造解析の師匠がおります。T氏です。そのT氏を同じく師と仰ぐ元大手家電メーカーのCAE専任者の方がいます。筆者はその方を「CAE仙人」と呼んでおります。その方の講演を何度も拝聴させていただきましたが、「設計」と「解析」について、端的かつ本質的に説明した一説があります。ご紹介しましょう。
設計とは、形状や強度、材料、公差などのさまざまな情報の中から、最適な情報を選び出す意思決定のことを指し、解析は、この意思決定を論理的、体系的に支える補助的な手段である。解析は、設計の羅針盤的役割として使うべきであり、設計者の設計能力の無さを補うものではない。
非常に厳しい言葉ではありますが、設計における解析の役割を的確に表しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.