東北大学サイエンスパーク構想が本格始動、優秀な研究者と共創できる仕組みとは?:研究開発の最前線(2/2 ページ)
東北大学と三井不動産は、両者のパートナーシップによる「東北大学サイエンスパーク構想」を本格始動したと発表した。
東北大学サイエンスパークの対象領域
当面の間、東北大学サイエンスパークの対象となる領域は、同大学が強みを有する「材料科学」「半導体/量子」「ライフサイエンス」「グリーン/宇宙」の4つだ。一例を挙げると、材料科学の領域では、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)で世界トップレベルの研究拠点プログラムを採択している他、グリーンクロステック研究センターではNanoTerasuで取得した材料のビッグデータを解析することに対応している。
冨永氏は「これらの領域を対象に当大学のサイエンスパークでは、新たな研究開発→専門家との研究ユニット形成→卓越した成果→成果の社会への認知→トップクラスの人材集積という流れが循環する『イノベーションエコシステム』を創造することを目指す」と強調した。
三井不動産が中心となり共創を促すコミュニティーを形成/運営
同大学のサイエンスパーク構想を実現するために長期にわたるパートナーシップを締結した三井不動産は同大学と協力して主に2つの取り組みを行う。1つ目は「先端技術開発に挑戦する企業の声の収集と、『サイエンスパーク』をはじめとする『共創の場』のあるべき姿の検討」だ。
この取り組みでは、同大学と共同研究を実施する企業やNanoTerasuを利用する企業、スタートアップに加え、先端技術開発に挑戦する幅広い企業から、研究開発部門特有の多様な意見を集める。既に企業へのニーズ調査としてコアリション(提携)企業を中心に400社以上へのアンケートを2023年12月から実施している他、2024年1月にはヒアリング調査も行っている。また、同大学のサイエンスパークに必要な機能や求められるコミュニティーなどの検討も行う。
2つ目は「複数の学術領域による共創を促し、『イノベーションを生み出す』コミュニティーを形成」だ。この取り組みでは、同大学が強みを持つ4領域(材料科学、半導体/量子、ライフサイエンス、グリーン/宇宙)を対象に、国内外の多くのステークホルダーを呼び込むことで、コミュニティーの拡大と共創の加速、学術領域の垣根を超えた交流/連携を図る。対象の学術領域は今後拡大予定だ。
加えて、大学や企業間などのネットワーキングに限らず産学連携を通してイノベーションを生み出すコミュニティーとして、会員組織「MICHINOOK コミュニティー」を形成/運営する。
MICHINOOK コミュニティでは、入会金/年会費が有料の「特別会員A/B」と無料の「個別会員」「学生会員」を設ける。これらの会員に向け主に「交流・連携機会の提供」「東北大学に関する情報提供」「会員企業による情報発信」「東北大学内の『場』の提供」といった4つのサービスを提供する。
交流・連携機会の提供では、年間を通して東北大学が強みを持つ学術領域(材料科学、半導体/量子、ライフサイエンス、グリーン/宇宙)ごとの最新の研究動向を紹介するセミナーや、複数の領域を横断したシンポジウムを開催し、同大学のさまざまな分野の研究者と先端技術開発に挑戦する企業にオープンな交流機会を設ける。併せて、有料会員には、有料会員限定の集まりや、個社ごとのニーズに合わせた研究者と学生とのマッチング機会、会員企業同士の出会いの場などを提供する。
東北大学に関する情報提供では、同大学が企業向けに提供する各種制度やイベント、研究者紹介などの情報を会員向けに定期的に発信するとともに、同大学が有する知財や図書データへアクセスできる環境を整備する予定だ。
会員企業による情報発信では、会員企業各社が実施するイベントやシンポジウムの情報を、MICHINOOK コミュニティの媒体やイベントを通して発信できる。これにより、会員各社の取り組みの認知拡大が図れる他、地方の企業が情報発信すればローカルからグローバルまで視野に入れた共創活動につながり得るとしている。
東北大学内の場の提供では、同大学の全キャンパスをフィールドとした大学と会員企業あるいは会員企業同士の共創活動を促すために、キャンパス内のさまざまな会議室やコミュニティースペース、ワークスペース、図書館などを会員企業向けに開放する。
三井不動産 代表取締役社長の植田俊氏は「MICHINOOK コミュニティの形成で必要な、会員を集める作業などは、当社が産業界の有志と設立したライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)やクロスユーと連携して行う。金融機関やベンチャーキャピタル、公的機関、研究機関などとも連携してコミュニティの形成活動を推進する」と述べた。
LINK-Jは、産学官連携によるオープンイノベーションを促進し、コミュニティーを活性化させることで新産業の創造を支援することを目的としている。同団体は、カリフォルニア大学サンディエゴ校をはじめとする海外の著名な大学や団体とも連携し、医学、理学、工学、ICT、AI(人工知能)の領域で人的および技術の交流を後押ししている。
クロスユーは、三井不動産と宇宙関連のプレイヤーが2022年9月に設立した宇宙ビジネス共創プラットフォームで宇宙産業領域の活性化を目的としている。MICHINOOK コミュニティでは、宇宙をテーマとするコミュニティー活動を推進する中で、クロスユーが実施する宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」との連携を検討している。
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