東北大が150℃まで蓄電可能なCNFの特性に結合水が関係することを発見:研究開発の最前線
東北大学は、酸化処理を施したセルロースナノファイバー(CNF)が150℃まで蓄電可能で、その蓄電特性にCNF内の結合水が関係することを発見した。今後、高電圧短時間充電や空中、真空中からの電荷の蓄電、蓄電体の大容量化などが期待される。
東北大学は2023年11月2日、酸化処理を施したセルロースナノファイバー(CNF)が、150℃まで蓄電特性を有することを発表した。その蓄電特性には、CNF内の結合水が関係することを発見した。静岡大学、日本製紙との共同研究による成果だ。
バイオマス素材の木材から生産されるCNFは、カーボンニュートラル素材として注目される。今回の研究では、触媒用有機化合物2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)の蓄電特性について調べた。
CNFを常温から210℃まで10分間加熱した後、電圧10〜300Vで5秒間充電し、1μAの一定電流による放電時の蓄電量を測定した。その結果、150℃まで蓄電量を保持し、温度上昇とともにCNF中の水分の蒸発量と交流電気抵抗が増加した。なお、蓄電量は150℃を超えると減少し、210℃付近でゼロに近づく。
この時、温度上昇に伴ってナトリウム23(23Na)イオンの運動性が高まり、水に取り込まれる量が増加した。近赤外線分析では、波数4770cm−1で強度が増加しており、温度上昇によって水酸化ナトリウム(NaOH)として存在する量が増えることが分かった。
こうした現象は、TEMPO酸化CNF内の結合水に起因する。CNF周辺のC6位を置換したCOONa官能基に形成される結合水の増加により、バンドギャップエネルギーが増え、蓄電量の漏れを防ぐことが分かった。この結合水は、195℃以上になると無機酸化物のNa2Oに分解され、210℃以上で蓄電量がゼロに近づく原因となる。
CNFを用いた蓄電体の高温対応や耐水性が実証されたことで、今後、高電圧短時間充電や空中、真空中からの電荷の蓄電、蓄電体の大容量化などが期待される。
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