このままではCNFはガラパゴス材料に!? カギは必然性と想定を超えた用途開発:材料技術
矢野経済研究所は、2021年のセルロースナノファイバー(CNF)世界市場に関する調査結果の概要を発表した。2020年のCNF世界生産量は、サンプル供給を含めて57tにとどまり、2021年も57〜60tを見込む。また、2021年の出荷金額についても2020年から横ばい、もしくは微増の見通しで53億7500万円になると予測する。
矢野経済研究所は2021年5月13日、2021年のセルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)世界市場に関する調査結果の概要を発表した。
採用増えるCNF、期待される複合樹脂での採用の課題は材料価格
2020年のCNF世界生産量は、サンプル供給を含めて57t(トン)にとどまり、2021年も57〜60tを見込む。また、2021年の出荷金額についても2020年から横ばい、もしくは微増の見通しで53億7500万円になると予測する。
現在、CNFは機能性添加剤や樹脂強化材としての採用が中心であり、最終製品における使用量そのものが少なく、メジャー製品への採用やCNF使用製品の販売量も限定的である。
CNFの採用状況を用途別に見てみると、機能性添加剤用途では透明性や増粘効果、分散安定性、乳化安定性の高さやチキソ性といったCNFならではの特性がユーザー企業から評価されているという。また、機能性添加剤用途の場合、少量添加で高い効果が得られるため、既存製品との価格差はさほど問題にはならないケースも多く、採用例も着実に増加傾向にある。
ただし、機能性添加剤用途ではCNFの使用量が少量であるため、まとまったボリュームの需要を確保するには、重量当たりのCNF配合率が10〜20%と高い複合樹脂での採用が望まれる。しかし、CNFの材料価格はガラス繊維や無機フィラーなどよりも高く、製品コストの増加につながることから、樹脂複合化用途での採用を妨げる要因となっている。
「CNFを採用する必然性」を示せるかどうかがカギに
近年、“脱プラスチック”をうたう既存の樹脂代替材料として、未処理パルプを数十〜数百μm程度のサイズに解繊したセルロースファイバー(CeF:Cellulose Fiber)が市場投入されている。CeF強化樹脂の材料価格はCNF強化樹脂の20〜25%程度と推計され、既存のガラス繊維強化樹脂(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)よりも高価であるがCNF強化樹脂ほどではない。
また、CeF強化樹脂は植物由来パルプを多く使用することによるCO2削減効果や、GFRPでは困難な水平リサイクルが可能である点などを強みとし、強度や耐衝撃性などはCNF強化樹脂には及ばないものの、単体の樹脂と比べて優れた物性を備えることから、樹脂強化目的であれば“CeFで十分”との見方も広がっている。
このままでは、日本発の新しい高機能材料として期待されてきたCNFは、市場が本格的に立ち上がる前に「高性能だが、高価でニッチなガラパゴスな材料」になりかねない状況にあるという。この現状を回避するためには、ユーザー企業に対して“競合材料ではなくCNFを採用する必然性”を示すことができるかどうかが重要となる。
CNFの未来に必要なのは想定を超えた用途開発
CNFを提案するメーカー、CNFの採用を検討するユーザー企業による、これまでの用途開発は“想定の範囲”にとどまっているという見方もできる。そのため、CNFを用いた新規事業の実現には、既存の競合材料にはない新たな性能や付加価値の提案に加え、従来の枠組みにとらわれず、ユーザーの想定を超えた“驚き”をもたらす提案を生み出すことが大いに期待される。
新たな市場を創出し、需要の拡大につなげるためにも、CNFという材料をゼロベースで見直し、市場やユーザーが期待する以上の提案につなげることが求められるという。
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