生合成した共重合体とのブレンドで、ポリ乳酸の靭性と生分解性を改善:材料技術
産業技術総合研究所は、ポリ乳酸の靭性と生分解性の改善に成功した。遺伝子組み換え大腸菌により糖類から生合成した共重合体をブレンドすることで、引張試験で200%を超える伸びに耐えられる。
産業技術総合研究所(産総研)は2024年3月26日、ポリ乳酸の靭性と生分解性の改善に成功したと発表した。新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/革新的バイオプロセス技術開発/糖原料からの次世代ポリ乳酸の微生物生産技術開発」として、産総研、神戸大学、カネカの3者が共同で取り組んだ成果となる。
バイオ資源由来プラスチックのポリ乳酸は、利用拡大の阻害要因として、数%の伸びで破断するもろさと、高温多湿の条件下でしか生分解が進まないことが挙げられる。
研究チームは、遺伝子組み換え大腸菌により糖類から生合成した乳酸と3-ヒドロキシブタン酸の共重合体(LAHB)をブレンドすることで、ポリ乳酸の伸びが大幅に改善し、海水中での生分解も促進されることを発見した。
LAモノマー分率が40mol%、重量平均分子量10万のLAHBを20重量%の割合でブレンドしたLAHB/ポリ乳酸複合材料(ポリ乳酸/LAHBブレンド)を用いた引張試験では、200%を超える伸びに耐えられる力学特性を有することが明らかとなった。ポリ乳酸/LAHBブレンドフィルムの透明性は高く、ポリ乳酸とLAHBがナノレベルで混合されていることを示唆する。
また、ポリ乳酸/LAHBブレンドの海洋生分解特性を、Biochemical Oxygen Demand(生化学的酸素要求量)試験で計測したところ、LAHBだけが分解した場合の理論値を大きく上回る生分解度を示し、LAHBのみならずポリ乳酸の生分解も進行していることが分かった。ポリ乳酸単独では、常温の土壌環境中や海洋環境での生分解が困難なことから、LAHBが分解のトリガーになると考えられる。
今後、ポリ乳酸とLAHBのブレンドによる力学、熱特性、生分解特性との相関関係を調べ、LAHBの構造の最適化を図る考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 軽量で磁界/電界ノイズのシールド性に優れる新たなシート
JX金属は、「TECHNO-FRONTIER 2023(テクノフロンティア2023)」(2023年7月26〜28日、東京ビッグサイト)で、開発中の「電磁波シールドシート」と微細配線形成できる「プリンテッドエレクトロニクス」を紹介した。 - 産総研がPEEKのモノマー単位への分解に成功、回収モノマーは高分子の合成に使用可能
産業技術総合研究所は、高機能熱可塑性ポリマーのポリエーテルエーテルケトンを選択的に切断し、モノマー単位へ分解する解重合法を開発した。プラスチックの熱分解温度を下回る150℃で行え、19時間以内に解重合中間体を生成できた。 - 産総研がセラミックス材料の最適な製造条件を短時間で算出するAIを開発
産総研は、使用原料の種類、成形方法、焼結条件などの製造プロセス情報を用いて窒化ケイ素セラミックス焼結体の熱伝導率を高精度に予測するAI技術の確立に成功した。 - フッ素樹脂の表面を平滑なまま強固に接着する表面改質技術を開発
産業技術総合研究所は、フッ素樹脂の平滑性を損なわずに接着性の高い状態へ表面改質する技術を開発した。表面粗化による伝送損失を低減し、高周波数帯を利用する次世代通信回路にも応用可能な10nm程度の平滑性と強い接着性を兼ね備えている。 - 産総研がバイオマス由来の2種のプラスチックから透明なフィルムの新素材を開発
産業技術総合研究所と科学技術振興機構は共同で、バイオマス原料で生分解性を持つ2種のプラスチックを合成し、透明なフィルムとして成形できる新素材を開発した。引き伸ばすほど強度を増す性質を持つ。 - 水を高効率に分解する赤色透明な酸素生成光電極でSTH10%を達成
産業技術総合研究所は、人工光合成化学プロセス技術研究組合、東京大学、宮崎大学、信州大学とともに、太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極を開発した。