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「設計者はなぜCAEを煙たがるのか」を考察し、広がりを阻害する壁を取り除く設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(2)(2/2 ページ)

連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。連載第2回では、マーケティング手法のチカラを借りて、CAEが広まらない理由を考察する。

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キャズムを越えるために

 綿密な教育計画を立てても、CAEの教育を盛り上げるためには、雰囲気作りをしなければなりません。まさにCAEマーケティングです。

 「『CAEはキャズムを越えていない』というけれど、いやいやウチでは皆、CAEを使っているぞ!」という読者も多いでしょう。では、CAEを「使う人」とCAEの「使い方」はどうでしょうか? CAEは設計者が使ってこそ、最大の効果を発揮します。ただ、CAEを使ってみたものの、難しい解析になると解析専任者に頼ってしまう設計者が大半であり、それが実情です。

 CAEを「導入」していることと、CAEが「普及」していることは全くの別ものです。CAEを導入しているからといって、それが設計に普及しているとは限りません。設計者が解析専任者に解析を都度依頼しているような状況では、CAEが設計に活用されているとはいえません。導入率と普及率は異なるのです。

 キャズムが発生する理由は、キャズムを挟む2つのグループの、新しい製品やサービスに対する価値観が全く異なるからです。キャズム以前のグループは新しい技術に積極的で、キャズム以降のグループは慎重かつ消極的です。

 CAEを設計者に普及させるためには、前期採用層を取り込む戦略が必要です。前期採用層は全体の3分の1を占め、この層の人たちがCAEを使うと全体の50%がCAEを使うことになります。

 前期採用層は、初期採用層の影響を強く受けます。よって、初期採用者が設計にCAEを活用して、明白な結果を出し、CAEの有効性を実証します。そして、その成果と有効性を周囲に知らしめる必要があります。初期採用者は、CAEの能力に加えて、コミュニケーション能力も重要な資質として求められます。CAEがキャズムを越えるためには、CAEのマーケティング戦略が必要となります。

 ただ、初期採用層である設計者には時間がありません。CAEを使って自分の仕事のQCDが上がればそれでいいわけで、CAEを設計に活用する技術を広めるモチベーションも時間もありません。

 初期採用層の設計者を優遇して、盛り上げる必要があります。設計者を講師としたCAE活用の事例の社内発表会や勉強会の企画、オンラインを含めた対面サポートの実施やQAのための優先的なサポートアカウントの付与など、通常のサポートとは違った特権を与えて、初期採用層の設計者を大切にする戦略を練る必要があります。初期採用層を育てない限り、CAEがキャズムを越えることは難しいでしょう。

設計者がCAEを煙たがる理由

 ここまではキャズム以前、つまり初期採用層についての施策を述べました。

 次は、キャズム以降の前期採用層に対する施策を考えていきましょう。“キャズムを挟み撃ちする”というわけです。この層を取り込めるかどうかで、CAEの活用が広まるかどうかが決まります。キャズムを越えられない限り、CAEの活用は部分的なものとなります。鳴り物入りで発表された製品やサービスがキャズムを越えられず、広まらなかった例はいくらでもあります。

 これまで40年以上にわたり、設計の現場にCAEを使ってもらおうと本当にいろいろな方法を試してきました。その活動の中で、設計者の皆さんを対象とする「なぜCAEを使わないのですか?」というアンケートを実施したことがあります。この回答の中に、前期採用層の攻略のヒントがありました(図3)。

設計者に聞く、「CAEのこれがイヤだ!」ランキング
図3 設計者に聞く、「CAEのこれがイヤだ!」ランキング[クリックで拡大]

 第3位の内容は、せっかく3Dモデルを作ったのに、強度解析にしか利用できないという不満です。もちろん勉強すれば流体解析もできるのですが、そのためには流体の座学や流体ツールを習得しなければなりません。これにはどうにも即効性のある答えはありません。

 続く第2位の内容は、言葉の意味さえ分からないエラーや警告が出るという不満です。計算力学の専門用語で間違いを指摘されても、設計者には分からないのです。エラーや警告は、メッシュ分割時にも出ます。完成した3Dモデルを解析のために修正するのも抵抗があります。

 堂々の第1位の内容は、CAEに手間と時間がかかるという不満です。設計者の多くは、設計にCAEを必要としていません。これまでCAEがなくても設計できていたからです。解析を行うということは、その分だけ解析に必要な時間が上積みされるということです。

 第1位〜3位までの課題を速攻で解決できる特効薬はありませんが、明るい兆しもあります。一つは、設計をしながら性能を確認できる、つまり解析できるツールがあることです。3Dモデルに荷重と固定を定義すれば、その時点で応力が表示されます。穴を開ければ、瞬時に応力が変わります。キャズムを越えている3D CADにCAEを統合することによって、二人三脚でCAEがキャズムを乗り越えられるのです。

 そして、もう一つが「サロゲート」です。サロゲートは“代理”という意味で、さまざまな仕組みでCAEを代理で実施する方法です。これについては、本連載の別の回で詳しく紹介することにします。 (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

著者プロフィール:

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。金沢工業大学 建築学科 修士課程修了。2022年に合同会社ソラボを設立。1983年より米SDRC、仏Dassault Systemes、サイバネットシステムを経て40年間にわたり3D設計、CAEのコンサルティングに従事。数多くの企業で、3D CAD、CAEを活用した設計プロセス改革や設計者のためのCAE運用支援などを推進。技術系Webサイトで連載、機械学会、公設試、大学などで講演多数。著書に「図解 有限要素法はじめの一歩(講談社)」および同実践編、「バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”(共著)(日刊工業新聞社)」がある。


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