東邦チタニウムが成長戦略を発表、2030年度に2022年度比で売上高と利益を倍増へ:材料技術(2/2 ページ)
東邦チタニウムが2024年度以降の成長戦略や今後の展望などについて説明。足元で需要旺盛な航空機向けの高純度のスポンジチタンを軸に事業拡大を進め、2030年度の業績として2022年度実績の倍増以上となる売上高1700億円、経常利益250億円という目標を掲げた。
新事業「ウェブチタン」を立ち上げ
好調な金属チタン事業に対して、触媒事業と化学品事業の環境は良好とはいい難い。触媒事業の主力製品はポリプロピレン合成用の触媒だが、中国の景気後退の影響による需要軟化と、中国のポリプロピレンメーカー能力過剰による輸出拡大が相まって、周辺アジア諸国のポリプロピレンメーカーの事業展開にも影響を及ぼしている。2024年度も、中国の需要回復は厳しい状況で、本格的な回復時期は2025年度以降になる見通しだ。ただし、長期的にポリプロピレンの需要は年率約4%の成長を想定している。
化学品事業で扱う超微粉ニッケルが用いられる積層セラミックコンデンサーも、スマートフォン向けを中心に需要が低迷しており、少しずつ回復傾向はみられているが、2024年度も大きな伸びはないという見込みだ。ただし、回復に遅れがあっても確実に需要が戻るとしており、長期的には積層セラミックコンデンサーは年率約7%の成長を見込んでいる。
このように最終顧客の需要によって業績に濃淡が出るのは材料メーカーの宿命ともいえるが、その対抗策となるのが新事業の立ち上げである。4本目の事業の柱として期待をかけているのが、水電解装置の陽極側材料となるチタンのシート材料「WEBTi-K(ウェブチタン)」である。ウェブチタンは、金属チタンを水素脆化させて粉砕した後に脱水素して製造する水素化脱水素粉をペースト状にして焼き固めたものだ。金属3Dプリンタ材料としてもいられるガスアトマイズ粉と比べて、低流動性/低充てん密度を特徴としている。
水電解装置の陽極側は強酸性環境になるため、水素イオンが通るプロトン輸送層(PTL)の材料としては耐久性の高いチタンが求められる。現在は、チタン繊維で製造したシート材料が用いられているが、ウェブチタンは特徴の低流動性/低充てん密度によって高い空隙率を有しており通気性が高い一方で、チタンに求められる強度と耐久性も確保している。結城氏は「チタン繊維と比べて薄くかつ平滑な点が強みになっており、既に欧州企業を中心にサンプルワークを進めている。2026年ごろから事業規模としての拡大を期待している」と強調する。
2030年度の業績では、金属チタン事業では航空機向けスポンジチタンで世界シェアトップ、触媒事業ではポロプロピレン触媒世界シェアトップ3、化学品事業では超微粉ニッケル国内販売シェアトップ、新規事業はウェブチタンを中心に売上高100億円を目標に置いている。全体としては、2022年度から売上高と経常利益を倍増するという意欲的な目標だが「現在の取り組みを進めて行けば目標達成は可能な範囲だ」(結城氏)という。
チタン新製錬法でカーボンニュートラルに対応
新事業の育成に加えて、材料メーカーにとって対応が難しいカーボンニュートラルに向けた取り組みも進展している。東邦チタニウムは2050年をカーボンニュートラルの目標としているが、施策の中でも重視しているのがチタンの新製錬法である。現在のチタン製錬法は、チタン鉱石内の酸化チタン(TiO2)を塩化して塩化チタンを生成した後、マグネシウムで還元するというプロセスになっている。塩化チタンの生成時にはカーボンも用いるがそこでCO2が副生成物として排出される。また、還元プロセス後に得られる塩化マグネシウム(MgCl2)を塩素とマグネシウムにリサイクルする際には電気分解のために大量の電力が必要になる。
開発中のチタン新製錬法は、チタン鉱石とアルミニウム、蛍石(CaF2)からチタン酸アルミニウム(TiAlO)を抽出した後、電解精製と塩浴分離によって純チタンを得る。塩化チタン生成時のようなCO2排出がなく、電力の使用量も抑えられることがメリットだ。米国企業と3年間の共同研究を経て、2022年度からパイロット試験を開始しており、2025年度の実用化を目指している。結城氏は「今の手法より安くCO2を出さないことを目標に改善を重ねているところだ。得られるチタンの品質は、現在の手法による高純度スポンジチタンと同程度を達成可能であり、航空機メーカーの認定などを経て将来的には採用範囲を広げて、2050年のカーボンニュートラルにつなげたい」としている。
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