電動車普及の陰にある「レアメタルと環境破壊」:材料技術(1/2 ページ)
東京大学 生産技術研究所 所長の岡部徹氏は「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」での講演で、“走るレアメタル”である電動車の資源サプライチェーンには“光と陰"があることを知ってほしいと訴えた。
地球環境に優しいはずの電動車が、実は環境破壊を生んでいる。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)など電動車の性能向上に欠かせないレアメタル(希少金属)。バッテリーやモーターなど電動車の主要構成部品に使用されており、その使用量は電動車の普及拡大に合わせて増加を続けている。
東京大学 生産技術研究所 所長の岡部徹氏は「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」(2023年5月24〜26日、パシフィコ横浜)での講演で、“走るレアメタル”である電動車の資源サプライチェーンには“光と陰"があることを知ってほしいと聴講者に投げ掛けた。
いいクルマをつくれば作るほど必要になる資源
岡部氏がまず指摘したのは、今は「VUCA(ブーカ)」の時代に突入しているということだ。VUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の頭文字を取った造語)とはもともと1990年代後半に軍事用語として生まれた言葉で、「先行き不透明で、将来予測が困難な状態」を意味する。
昨今の社会情勢と重ね合わせ、2010年代に入るとビジネスにおいても使われるようになった。現在はウクライナ問題や台湾有事の可能性といった地政学的なリスクに加え、世界的な異常気象や気候変動、感染症などのリスクも顕在化した。今後は「環境破壊が大ごとになってくる」(岡部氏)と強調した。
カーボンニュートラルの実現に向けて普及が進む電動車が、なぜVUCAの観点では環境破壊にかかわるのか。その要因がバッテリーやモーターなどに使われるレアメタルの存在だ。特にEVを中心とした電動車が積むバッテリーには相当量のレアメタルが使われる。岡部氏は「車載バッテリーのレアメタルは世界中でどんどん逼迫(ひっぱく)している」と触れた上で、「皆さんがいいクルマを作れば作るほど資源が必要になり、どこかで資源を掘り起こしている。そして資源を精錬するところでは環境破壊が起きている」という状況を指摘した。
そもそも電動車に使うレアメタルで環境破壊が起きるのは、そのサプライチェーンが大きく関係している。例えばレアメタルの一種であるレアアース(希土類)。現在のグローバルな供給は中国が大半を握る。かつては米国やその他の国も生産していたが、2000年ごろには中国がほぼ独占。米国では資源枯渇による閉山ではなく、利益確保が困難との理由で操業停止に追い込まれた。
利益が確保できない理由。それは「中国が環境コストを払わずにあまりにも安い価格で世界中に供給している」(岡部氏)ためだ。一般的にレアメタルについては資源供給の制約が問題だと認識されているが、岡部氏は「そんなことはない。世界中にいくらでもある」と一蹴。資源供給の制約ではなく、「環境コストを払わずに、環境を乱しながら作るのが最も安上がり。それが現状であることが問題だ」(岡部氏)と指摘した。
不透明な状況下で高騰する資源
講演では、ウクライナ問題を巡る資源価格の高騰にも言及した。銅については「今はベースメタル(社会の中で大量に使用され、生産量が多い金属)だが将来的にはレアメタルになる」と持論を展開。およそ2年前は1t当たり60万円だったものが、今では100万円を超えるような水準になっていることに触れた。今後、世界戦争や東西分断などが起こった場合には「200万円を超えることはめったにないと思うが、VUCA時代だからこそ起こり得る可能性もある」と予想した。
排気ガス用触媒に使われるパラジウムについては、主要産地であるロシアを巡る現状を解説した。パラジウムはウクライナ侵攻に伴うロシアへの制裁により供給障害を懸念する状況が高まった。ロシアが世界供給の4割を占めているためで、供給不足への懸念から価格が暴騰。高値の時は1gで1万円を超える相場となった。ただ現実的には「中国など第3国を経由して世界にパラジウムが供給されている可能性が高い。高騰したが今は下がっているのは結局そういうことだ」(岡部氏)と分析した。
こうしたVUCAな状況にあるレアメタルを多用した電動車を普及させると、地球環境によいことをやっていると評価を受ける……岡部氏は「これを“光”とするならば、裏には陰の部分がある」と語る。それが主産物と副産物の関係で、レアアースという主産物を掘り出そうとすると、ウランやトリウムといった副産物が発生する。これが岡部氏が指摘する“陰”の部分だ。
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