電動車普及の陰にある「レアメタルと環境破壊」:材料技術(2/2 ページ)
東京大学 生産技術研究所 所長の岡部徹氏は「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」での講演で、“走るレアメタル”である電動車の資源サプライチェーンには“光と陰"があることを知ってほしいと訴えた。
ウランやトリウムなどはNORM(ノルム、自然起源放射性物質)と呼ばれており、天然由来の放射性物質を意味する。地球を構成する天然資源(主に土壌や岩石、鉱石など)にはノルムが含まれている。例えばEVにも欠かせない銅を作り出す際は「金や銀も付いてくるが、ヒ素、カドミウム、水銀なども付いてくるのが現状で、避けては通れない」(岡部氏)。ヒ素、カドミウム、水銀は鉛や亜鉛を作る際の副産物でもある。
直ちに健康被害につながるレベルではないものの、岡部氏は自動車業界に身を置く聴講者に対し、「皆さんが高性能磁石を作るためにレアアースを取り出そうとすると、こうした副産物が出てくる。これがレアメタルの陰の部分だ」と投げかけた。
“副産物”の処理は
さらに「皆さんに考えて欲しい」と訴えたのが、こうした副産物(いわゆる廃棄物やごみ)は、どこかの国で処理されているという実態だ。排水のように垂れ流し、廃棄物の山(ボタ山)を作るなど、環境コストを掛けることなく処理されている。銅を事例に出し、岡部氏は「銅鉱石の品位は0.5%。銅1kgを作るのに最低でも200倍のごみが発生する。クルマ1台に50kgの銅を使うとすると、銅を作るだけで10tのごみが発生している」と実情を訴えた。
鉱山開発と精錬は富を生み、人々の生活を豊かにする一方で、多大な環境破壊も生んでいる。岡部氏は講演の途中、「EVなど電動車を作り、普及させるという華やかな世界に生きている皆さんと、資源開発を巡ってはこうした現実があることのギャップを埋めたくて今回の演題にした」と打ち明けた。
講演の最後、岡部氏はレアメタルの陰の部分を考慮した上での提言として循環資源立国への挑戦と「バリューオブネーチャー」の導入を紹介した。循環資源立国については「銅1つとってもクルマ1台分を作るのに10t以上のごみが発生していることを認識しながら、いいクルマをどんどん作って欲しい」と訴えた。
バリューオブネーチャーとは、鉱石が本来もっている価値を資源価格に反映させる概念だ。「レアメタルの鉱床は地球が生んだ奇跡であるにもかかわらず、鉱物資源の価値があまりにも低い。タダ同然で採掘され消費されている」(岡部氏)という現状を、バリューオブネーチャーの導入で変えることができれば、資源を大切に使うようになるとしている。
さらに、今は支払われていない廃棄物処理コストも資源価格に加算することができればリサイクルも促進されるようになると岡部氏は予測する。リサイクル原料からレアメタルを生産する場合、天然鉱石を処理する際に発生する有害な廃棄物の発生を回避することができる。これがレアメタル資源を循環利用する最大のメリットであり、走るレアメタルである電動車には、その役割を果たすことが求められると締めくくった。
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