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いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い【前編】基礎解説(2/2 ページ)

社会や現場課題を解決するためのアイデアを考え、それを具現化する「機械設計」の仕事ですが、実は「製品設計」と「設備設計」で文化や仕事の進め方が大きく異なります。今回は【前編】として、「設計対象物」「QCDの優先順位」「新規性の有無」をテーマに“製品設計と設備設計の違い”を分かりやすく解説します。

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品質、コスト、納期の優先順位の違い

 モノづくりでは「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」という3つの重要な要素があり、それぞれの頭文字を取って「QCD」と呼ばれています。これらの要素について、製品設計、設備設計それぞれで優先順位が異なります。

 製品設計の場合は(1)品質、(2)コスト、(3)納期(QCD)の順になります。これは製品が「見込み生産方式」であることに起因しています。見込み生産方式とは「これからこういう機械を開発、販売して、月○台の売上高を目標にしよう」という計画に基づいて生産される方式です。

 設計開発の時点で実際の売上高は未知数なので、市場ニーズに合うような高機能/高品質かつ他社と差別化された製品を生み出すことがエンジニアに求められ、特に品質が重要視される傾向にあります。また、大量生産される製品であれば製造コストの削減効果が大きくなるため、1円でも安く作れるような設計上の工夫が要求される他、部品の仕入先の調査や交渉なども求められます。

 一方、設備設計の優先順位は(1)納期、(2)品質、(3)コスト(DQC)の順になります。生産設備を外注で作るのであれば基本的に「受注生産方式」であり、受注をした段階で売上高が確定しています。さらに、設備設計者が満たすべき品質のレベルは「仕様書」という形で明記されているため、品質の創意工夫も製品設計と比べてそこまで高くありません。

 逆に、納期については厳しい傾向にあります。例えば、1日当たり数千個の処理をする生産設備の納品が1日遅れてしまったとします。そうすると、設備を運営している発注側の企業(お客さま)は「数千個×製品単価」もの機会損失を被ることになり、最悪の場合、賠償問題にも発展しかねません。なお、外注ではなく内製で設備を作るのであれば賠償問題などのリスクはありませんが、DQCの順で優先されるなどの文化は共通です。

製品設計はQCD、設備設計はDQC
図3 製品設計はQCD、設備設計はDQC[クリックで拡大]

新規性の有無の違い

 製品設計では、比較的新規性の高い設計を行うことがあります。なぜなら、製品設計では市場のニーズに応え、他社製品との差別化をしていくことが求められるからです。場合によっては、設計開発の前段階である「企画」から設計者が関わり、アイデアの提案などを行うこともあります。

 例えば、スマートフォン市場ですと、毎年のように新機能やデザインが導入され、消費者に向けて製品の魅力を発信しています。新規性の高い設計の追求は、それだけチャレンジングな要素をたくさん含んでいるといえます。ただ、試作段階であれば失敗をしても何とかリカバリーできるため、最新技術やこれまで実績のない要素を積極的に取り入れて、消費者へ新しい価値を提案/提供するような動きがしやすいといえます。

 ただし、当然、新規性の導入にはリスクもつきものです。製品の売れ行きが悪ければ在庫を抱えることになり、損失が生じてしまいます。逆に、売れ行きが良ければさらに増産が計画されて、場合によってはトレンドを生み出すことにもつながります。

 もしも製品設計に興味があれば、製造業向けの展示会などを見て回ることをオススメします。近年はAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)、カーボンニュートラルといったトレンドが目立ちます。さまざまな発見や刺激、開発のヒントが見つかるかもしれません。

 一方、設備設計において、特に外注されるような場合では、新規性は求められない傾向にあります。なぜなら、生産設備は機械の規模が大きいため、試作を行わずにいきなり本番機を作るケースが多いからです。さらに、生産設備が稼働できなくなった際の機会損失が膨大になる(膨大になりやすい)点も理由として挙げられます。

 設備設計は先ほど紹介した通り、設計着手時には既に売上額が確定しているため、新規性の導入はハイリスクローリターンになりがちです。ここで強く求められるのは「仕様書に記載された品質を確実に満たすこと」であり、確実性が高い、あるいは導入実績のある機能、部品、機構などが好まれます。ただし、内製で生産設備を設計開発している企業の中には、設備の生産性向上に向けたチャレンジ(新規性の高い設計)を推進しているケースも見られます。

 製品設計と設備設計の違いをサッカーに例えると、製品設計はオフェンス重視、設備設計はディフェンス重視のスタンスで仕事をしているイメージです。

サッカーに例えた製品設計と設備設計のイメージ
図4 サッカーに例えた製品設計と設備設計のイメージ[クリックで拡大]


 今回お届けした【前編】では“製品設計と設備設計の違い”をテーマに、「設計対象物の違い」「QCDの優先順位の違い」「新規性の有無の違い」について紹介しました。次回の【後編】では「予算配分の違い」「求められる知見の違い」を取り上げるとともに、「製品設計と設備設計のこれから」について筆者の考えを述べたいと思います。お楽しみに! (次回へ続く

⇒「連載バックナンバー」はこちら

筆者プロフィール:

りびぃ

りびぃ
ものづくりのススメ」サイト運営者

2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。

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