設計者とデザイナーの対立はあるか?:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(1)(1/2 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。第1回は「設計者とデザイナーの対立はあるか?」をテーマに、対立構造を解消し、より高度な協業を実現するために必要な考え方を整理する。
設計者のためのインダストリアルデザイン入門
優れた製品を開発する上で、デザインを取り入れることがいかに重要であるかという認識は、多くの皆さんもお持ちかと思います。電気器具メーカーとして人気を博したBraun(ブラウン)や、PCやスマートフォンで社会に変革を起こしたApple(アップル)などの製品開発には、優れたデザイナーの存在があったことが知られています。そして、これら製品開発の裏ではデザイナーの活躍だけでなく、設計者とデザイナーの高度な協業があったことが伺えます。
一方、私たち自身の開発現場に視点を移すと、果たして設計者とデザイナーは適切な協業を行えているのでしょうか。実際のところ、両者の意思疎通がうまくいかず、その対立構造が開発の円滑な推進を阻害しているケースも少なくありません。
機械設計者であり、インダストリアルデザイナーでもある筆者の目線から、開発現場における設計者とデザイナーの関係を整理し、両者の対立構造を解消するだけでなく、より高度な協業を実現するために必要なことについて考えていきます。
まず、設計者とデザイナーの関係をあるべき姿にするためには、以下の4つが必要だと考えます。
- 「互いの役割分担」を知る
- 「対立を生む要因」を理解する
- 「対立を解消する対話」を心掛ける
- 「協業を高度化する技術」を身に付ける
今回は、これら4つについて深掘りしていきます。
設計者とデザイナーの役割分担
プロジェクトの下では、設計者もデザイナーも同じ製品を開発する立場にありますが、それぞれが担う役割は異なります。表1に筆者の経験に基づく両者の役割分担のイメージを示しました。肩書にひも付く開発工程ごとの役割は、企業やプロジェクト、あるいは個人の持ち得る専門性やプロジェクト状況に依存するため、実体としては流動的ですが、おおむねこのような役割分担が一般的といえるでしょう。
肩書 | 開発工程 | |||
---|---|---|---|---|
企画 | 設計 | 製造 | 保守 | |
設計者 | 事業要件に基づき設計要件を定義し、設計構想と原価企画を策定 | 設計要件に定められた機能/性能およびデザイン要望を構造や図面へ反映 | 部品寸法/組立精度の管理、完成品の機能/性能評価 | 清掃やメンテナンスを含む運用方法の定義と製品マニュアルへの反映 |
デザイナー | 事業要件に基づきユーザーや使用環境を定義し、構想デザイン(意匠)を策定 | ユーザーに好まれる意匠や使い勝手を具体化し、デザイン要望として設計者に提示 | シボ/磨きなどの表面の仕上がりおよび色彩の指示/管理 | 製品の表示やマニュアルに使用するグラフィックスの作成 |
表1 設計者とデザイナーの役割分担 |
設計者とデザイナーの役割を大別すると、(一概に言うことははばかられますが)設計者は機能や性能の実現に責任を持ち、デザイナーは製品をユーザーや市場に受け入れられやすい姿にすることに責任を持っていることが多いと考えます。
設計者とデザイナーの対立を生む要因
設計者とデザイナーの対立を生む要因は、それぞれの役割の違いに起因していると考えられます。なぜなら、設計者が責任を持つ機能や性能の実現と、デザイナーが目指す製品の姿がトレードオフの関係になることがあるからです。
ここで、設計者とデザイナーの意向がトレードオフになる具体例を1つ紹介します。
業務用プリンタの開発に従事している設計者は、ある日、デザイナーから当該製品のカラーバリエーション(以下、カラバリ)を白/黒2種類で提供したいという要望を受けました。
これを設計で実現するためには、カラバリ対象の外装部品を白/黒2セット用意する必要があります。しかし、設計者は白と黒の部品を同じ型で作ってしまうと、白い部品の成形時に黒が色移りしてしまうリスクがあり、リスクを回避するには金型を白/黒それぞれ別々に作らなくてはいけないため、対応方針に頭を悩ませます。
その結果、リスクをとることも金型費用を増やすこともしたくない設計者は、技術的な根拠を添えて、デザイナーの要望を拒否することにしました。しかし、それでもなお、デザイナーは市場競争力の観点でカラバリが必要であると訴え、設計者と対立することになってしまいました……。
このケースでは、デザイナーはカラバリを実現して市場競争力を高めることに自身の責任があると考え、設計者はできる限り製品製造におけるリスクとコストを下げることに責任があると考えています。つまり、両者の主張はトレードオフでありながらも、組織構造上、両者が譲れない対立状態に陥ってしまっているのです。
なお、このケースに見られるような論点が実際に発生した場合の終着点は、その組織において力のある部門がどちらであるかに左右される傾向にあります。この場合、どちらの結果になろうとも他方の遺恨は避けられず、それが組織全体のひずみにつながってしまうことも考えられます。
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