日産の燃料電池が定置用でトライアル開始、使用するバイオ燃料も確保:脱炭素(2/2 ページ)
日産自動車はバイオエタノールから取り出した水素で発電する定置型の燃料電池システムを開発し、栃木工場でトライアル運用を開始した。使用するバイオエタノールは、スタートアップ企業のバイネックスと協業して確保する。
ソルガムとは?
バイオエタノールの原料について日産自動車はさまざまな検討を重ねた結果、食糧需要と競合せず、栽培しやすさや収穫量の多さなどを踏まえてソルガムが原料に最適だと判断した。
ソルガムとはイネ科の一年草植物で、生育が早く栽培適地であれば3カ月で収穫することができ、年に複数回収穫できる場合もある。寒冷地(日本であれば北海道以南)や乾燥地にも順応できるため、幅広い地域や土壌で栽培できる。
ソルガムの茎の部分はエタノールの原料となる糖液に、実の部分は食料に使用でき、とうもろこしやサトウキビを使ったバイオエタノールのように食糧需要と競合しないのが特徴だという。実の部分はそのままゆでて食べたり、粉末にして小麦粉の代わりに使うことができる他、家畜の飼料としても利用できる。絞りかす(バガス)はペレット化してバイオマス発電に使用できる。
日産自動車とソルガム由来のバイオエタノールを手掛けるバイネックスはオーストラリア 西オーストラリア州で10haの小規模トライアル栽培をスタートする。栽培からエタノール製造まで行い、製造したエタノールは日産自動車のSOFCで使用する。栽培の小規模トライアルで得たデータは、今後の栽培規模拡大においても日産自動車とバイネックスで共用するなど、協力してバイオエタノールの確保に取り組む。
その後、ソルガムの大規模栽培に向けた準備を進め、段階的にソルガムの栽培とバイオエタノールの製造を拡大する。2030年までに0.1万kl(キロリットル)、2030年代前半に3万キロリットル、2030年代後半に13万キロリットルと増やし、2050年までに30万キロリットルを日産自動車として確保する計画だ。工場で使用する30%の電力をSOFCでまかなうのに必要なバイオエタノールが30万キロリットルと見込んでいる。
この規模のバイオエタノールを生産するため、ソルガムの栽培地はオーストラリアで最終的に5万ha(500km2)まで拡大する。自然災害への対策としてオーストラリア国内の複数の州でソルガムを栽培し、州内でも1カ所に栽培地が集中しないようにしていく。既に栽培面積1万ha(100km2)分のソルガムの種子を確保済みだ。
地産地消できないけれど
バイネックスはテストを含め海外20カ国で広くソルガムの栽培を行うが、日本国内では実験圃場のみで本格的な栽培は予定していない。日本でも北海道以南であれば栽培できるが、バイオエタノール向けの大規模栽培に必要な面積の土地を確保するのが難しく、1年に複数回収穫できる地域も限られるためだ。
ソルガムからバイオエタノールまで地産地消できず、海外から輸送するのはカーボンニュートラル達成に向けた弱点となる。船の燃料のカーボンニュートラル化などが不可欠だ。ただ、輸送のカーボンニュートラルが進んでいないことを加味しても、外部から購入する電力の2分の1から3分の1にCO2排出量を低減できているという。
ソルガムは痩せた土地や少ない水でも育つなど栽培の手間がかからないが、従来のソルガムは実しか利用しないため、小麦やコメ、とうもろこしなどの穀物と比べると農家にとっては収入の面では見劣りしていた。バイネックスはバイオエタノールの原料となる糖液が多くとれるよう背が高く育つソルガムの品種を開発。実以外の部分もバイネックスが買い取るため、農家は収入増が見込める。
ソルガム以外にも食糧需要と競合せずにバイオ燃料を製造できる作物は複数あるが、ソルガム以外に食用になるものがなく、植えた後に耕作地に戻す際に多くのコストを要するため、ソルガムは農家にとって魅力ある作物だとしている。
また、ソルガムの根が吸収したCO2のカーボンクレジットを農家とバイネックスで分け合うなど、ソルガムを育てるメリットを打ち出していく。ソルガムは吸収したCO2の4割を根の部分が固定する。背が高く根も長い品種であれば、1ha(1万m2)当たり年間60トンのCO2を固定することができる。根が固定したCO2の7割は分解され放出されてしまうが、残りの3割は「数万年単位で地中に残る」(日産自動車)という。
ソルガムは3カ月に一度交配できるため、狙った品種が3〜4年でつくれるなど品種改良しやすいという特徴も持つ。エタノールの原料となる糖液を多くとれる品種を選べる他、背が高くなる品種であれば地中に残る根の部分も大きくなるためCO2固定能力を高められる。東京大学など日本の大学が品種改良を得意とする。
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