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これでいいのか!? 設計者のCAE教育設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(1)(2/2 ページ)

連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。

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設計プロセス上のCAEの属性

 「CAE」と一口に言っても、いろいろなCAEがあります。解析分野でいえば、構造、流体、磁場、音響、機構……などなど。それぞれソフトウェアがあるので、解析分野に対するCAEソフトウェアのカテゴリー分類は分かりやすいですよね。これはCAEの属性を分類するための一つの軸です。

 CAEには、もう一つの軸があります。それはプロセス軸です。構造解析でいえば、設計の初期段階で設計の方向性を決めるのであれば、線形静解析などの初歩的な解析で対応可能な場合があります。設計のプロセスを経るごとに、線形静解析ではカバーできない現象を検証しなければならなくなります。後工程になるに従って、その検証に必要な解析の難易度は高くなります。

 粗い分類ではありますが、設計の初期段階に行われる「設計の方向性」を決めるためのCAEと、設計の最終段階で行われる「設計の正確性」を検証するためのCAEの2種類があります。この2つのCAEは、解析の難易度が違うことはもちろん、解析に必要な手間も時間も、解析結果の解釈も異なります。

 筆者の経験上、ほとんどの場合、設計者CAEは“設計の最終段階で実施される解析を設計者が行うこと”という理解が大半を占めているように思います。

 つまり、設計者が、難易度の高い解析を、解析専任者のサポートを得ながら四苦八苦して行っているのです。時には解析の難易度の高さから、解析そのものを解析専任者に丸投げする場合もあります。設計の最終段階で行われるこの解析がNGだった場合、設計の手戻りは大きくなります。そして、時には「振り出しに戻る」場合もあります……。

 これは「設計者CAE」ではありません。専門的な解析を設計者がやっているだけです。

 本来、CAEが一番威力を発揮するのは“設計の初期段階”です。ところが、この段階では3Dモデリング優先で、設計の検証は後回し、というのが現状です。

 設計課題を解決するために、アセスメント(設計課題調査)を実施したことがあります。筆者が3D設計を行う設計者の手順を拝見します。

筆者 あっ、今、板厚を3mmと指定しましたよね。その根拠は何ですか? 妥当性の検証はどのようにするのですか?

設計者 ここでは適当に入力しておいて、後で解析か実験で確かめます。

 こんな感じです。

 ある会社では、CAEの検証結果がDR(設計審査会)の開催に必要な書類となっています。CAEが設計プロセスに組み込まれている、というわけです。この解析結果は、ほとんどの場合、設計の最終段階で行われた設計の検証のための解析結果です。その解析結果は、設計者が解析専任者の手を借りながら出したものです。たぶん、設計者はCAEの恩恵など感じていないでしょう。DRの通過儀礼として、事務的にCAEを行っているのではないでしょうか。

設計プロセスで必要なCAEは異なる

 設計プロセスのフェーズによって必要なCAEは異なります。ここではA、B、Cの3タイプに分けて解説します(図2)。

設計プロセスにおけるCAEのカテゴリー
図2 設計プロセスにおけるCAEのカテゴリー[クリックで拡大]

タイプA:構想設計

 構想設計のフェーズでは、形状が頻繁に変更されます。リブの配置や板厚など、設計の方向性を見定める定性的なCAE活用です。

 解析を繰り返し行うので、軽快に動作し、操作も簡単、教育もいらず、メッシュ分割などの有限要素法の知識などなくても使える、そんなツールが理想的です。

 3D CADに付属のCAEモジュールは、形状を変えると解析モデルも自動的に変更される機能があるので、その機能が活躍します。3Dモデルを解析モデルに変換して、メッシュ分割する部分を自動化しているわけです。

 このメッシュ分割でエラーが起こることが多く、設計形状とは関係ない形状の修正を行わなければならない場合があります。

 現在では、メッシュ分割を行わない「メッシュレス」で解析を行う解析ソフトウェアもあります。3Dの形状に荷重や固定の条件を与えただけで、3Dモデル上に応力コンター図が描かれ、3Dの形状に穴を空けると瞬間的に応力が変わります。まさに性能を見ながら設計ができるわけです。

タイプB:基本/詳細設計

 基本/詳細設計のフェーズになると、定量的な評価が必要になります。応力や変形量が設計基準値を満たしているかなどを検証しなければなりません。

 アセンブリ状態の解析を行う場合もあるので、その場合は、接触を考慮した解析を行う必要があります。最近の3D CADのCAEモジュールは、ほとんど接触をカバーしています。

タイプC:試作/評価

 設計の試作/評価のフェーズになると、現象を精度良く定量的に評価できる難易度の高い解析が必要になります。高機能の「ANSYS」「Nastran」「Abaqus」などの汎用(はんよう)ソフトウェアを使うことになります。場合によっては、現象に特化したソフトウェアが必要となり、たくさんの計算リソースも求められます。

 3D CADのCAEモジュールで、タイプAとタイプBをカバーすることはできますが、タイプCで使うソフトウェアをタイプA、Bに使うことは避けた方がよいです。タイプCで使われるソフトウェアは高機能が故に、重くて小回りが利かないからです。



 設計のフェーズによって必要な解析は異なります。各フェーズに合ったソフトウェアや活用方法を選択することが重要です。そして、それを認識することが、設計者CAE教育の第一歩となります。 (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

著者プロフィール:

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。金沢工業大学 建築学科 修士課程修了。2022年に合同会社ソラボを設立。1983年より米SDRC、仏Dassault Systemes、サイバネットシステムを経て40年間にわたり3D設計、CAEのコンサルティングに従事。数多くの企業で、3D CAD、CAEを活用した設計プロセス改革や設計者のためのCAE運用支援などを推進。技術系Webサイトで連載、機械学会、公設試、大学などで講演多数。著書に「図解 有限要素法はじめの一歩(講談社)」および同実践編、「バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”(共著)(日刊工業新聞社)」がある。


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