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インタビュー

現場のカンコツをIoTデータで裏付け データドリブンな漁業に転換目指す製造業IoT(2/2 ページ)

漁業は製造業と同様、熟練労働者の高齢化や次世代への技術伝承といった問題に直面している。これに対してIoTなどを通じてデータドリブンな漁業の実現を目指すのが、日本事務器の展開する「MarineManager +reC.」だ。

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情報を漁業関係者間で共有可能

 漁業者自身はアプリ上で、漁獲量や漁の場所に加えて漁での気付きなどを自由に記録し、漁業関係者全体で共有することができる。これらの情報にブイから送られてきたデータなどを組み合わせて、業界全体で分析しやすい環境の整備を目指す。漁業者全体で記録項目の種類はカスタマイズ可能で、共有する情報も自由に設定可能だ。

 漁獲量や海水温といったデータは時系列で表示できる。過去の漁業データなどと比較しながら、網を設置する深さや場所、形状変更を検討するといった使い方が可能だ。さらに漁業者だけでなく、漁協組合や水産物のバイヤーなども情報を参照できる。船が戻る前に漁獲量を確認できるため、漁協組合の職員は水産物を加工工場に運ぶトラックの配送量を事前に検討できる。

 和泉氏は「組合職員は周辺の農家と調整しながらトラックを手配することもある。漁獲量が分かればトラックの配送台数を早期に計画できるので、物流の観点からも意義がある」と説明する。バイヤーも他の組合と比較して価格戦略を決定しやすくなるという利点がある。

 また、漁業協同組合から漁業者に通知を送るなど簡単なコミュニケーションを図ることができる。この他、ワンタッチで必要な情報を入手できるようにするなど、デジタルツールに慣れていない漁業者でも使いやすいUIを意識して設計した。

日頃の「気付き」をデジタルで保管

 MarineManager +reC.を使うメリットの1つが、これまでの経験則にデータの裏付けを与えられるという点だ。和泉氏は「漁業者の間では『流速が速いと漁獲量が上がる』という経験則が知られているが、実際の漁獲量や流速のデータで裏付けを取ることで、経験の浅い漁業者でも納得感が上がる」と説明する。他のユーザーと情報を共有することで、自分では気付かなかった知見が見つかる可能性もある。

 日頃の気付きをスマートフォン上で記録、集約できる機能も大きな特徴だ。「漁業者は固定電話の横に置いた日めくりカレンダーに必要なことを記入したりしている。しかし、せっかく新しい気付きを記入しても、カレンダーを倉庫などに持ち込んだ結果、紙なので汚れてすぐに読めなくなることがある」(和泉氏)。資料の散逸や破損のリスクを抑えつつ、データドリブンな漁業を実現しやすくする。

 サービス設計に当たっては、漁業自体の勉強や関係者へのインタビューを繰り返し行った。日本事務器 事業戦略本部 バーチカルソリューション企画部 水産関連事業担当マーケッターの増元理名氏は「どのような時にメモを取るのか、何を食べるのかなど基本的な質問から聞いていく。人間関係ができると外部の人間に教えづらい情報なども少しずつ教えてくれる」と振り返る。

 漁業者の中には、他の漁業者を競合する同業者と見る向きも根強く、データ共有への抵抗感は少なからずある。ただ、若手世代の漁師はIT活用に強い関心を抱いているようだ。漁師の親から「継がない方がいい」と言われても、大学で水産業やITなどを学んでから業界に入る層が一定数いるようだ。日本事務器はこうした層をアーリーアダプターとしてMarineManager +reC.を広めていく計画だ。

 「手段や漁の場所が少し異なるだけで、漁獲量の結果は異なってくる。それが環境のせいなのか、自分のせいなのかを若手だと判別しづらい。データがあれば、若手も自分達でも試行錯誤しつつ漁ができるようになる」(増元氏)

 和泉氏は「日本の漁業は長い歴史がある。今後の若手の漁業者にノウハウをしっかり残して、データドリブンな漁業を実現し、持続性ある漁業を作る手伝いをしたい」と抱負を語る。今後、MarineManager +reC.を水産養殖プロセスにも適用範囲を広げていく構想があるようだ。

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