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本当にITで農業を救えるのか!? コストイノベーションと地域視点で新たな営農スタイルを目指す「T-SAL」センサーネットワーク活用事例(1/4 ページ)

現役就農者の高齢化や後継者不足に伴う農家人口の減少、耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱える課題に対し、IT/ICTで持続可能な農業を実現しようとする取り組みが各所で進みつつある。その1つが、東北のIT企業/農業法人や教育機関などが中心となり活動している「東北スマートアグリカルチャー研究会(T-SAL)」だ。大企業では実現できない地域連合ならではの取り組みとは?

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IT/ICTが農業の衰退に歯止めをかける!?

 現役就農者(農業従事者)の高齢化や後継者不足に伴う農家人口の減少、耕作放棄地の増加など、日本の農業は危機に直面している――。

 就農者の平均年齢が66.1歳(2010年の数値:農林水産省調べ)と高齢化が進む中、“持続可能な農業”を実現するには、若い担い手である新規就農者や新規参入法人(農業法人)を増やさなければならない。

 農林水産省の調べによると、“持続可能な農業”を行うには、年間2万人の青年新規就農者の“定着”が必要とのことだが、実際、40歳未満の若い新規就農者の数は1万3000人(2010年の数値:農林水産省調べ)にとどまり、そのうち定着するのは1万人程度だという。

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 なぜ定着しないのだろうか。その理由としては、例えば、ベテラン農家の経験と勘によるノウハウが簡単に継承できるものではない(習得に時間がかかる)点、そして、そもそも農業自体のビジネスモデルが未成熟で、職業として魅力的ではない(というイメージがある)点などが挙げられる。他にも要因があるかもしれないが、「職」として考えた場合、このあたりが定着率の低さを物語る主たる理由ではないだろうか。こうした問題点を1つ1つ見直していかないと、いくら国が就農支援事業を推進したところで、新規就農者/新規参入法人を増やすことはできないだろうし、根本的な解決にはならないだろう。小手先の対策だけでは、持続可能な農業の実現などかなうわけもない……。


 今の日本の農業が抱える課題に対し、IT/ICTで立ち向かおうという取り組みが、最近、メディアなどでも取り上げられるようになってきた。多くは、「IT/ICTを活用した農業活性化」の旗の下、行政・教育機関と大手企業が主導しているもので、現在、積極的に実証実験などが行われている。その内容を大くくりに言うと、話題のクラウドやセンサーネットワークを活用し、圃場(ほじょう:畑、菜園などのこと)の状態をモニタリングしてデータを収集・蓄積し、ノウハウの継承や品質向上などに役立てようというものだ(関連記事1関連記事2)。さらに、こうした取り組みは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興支援にも役立てられようとしている(関連記事3)。

 このように農業のIT化が進めば、経験と勘により培われたベテラン農家のノウハウをデータ化でき、蓄積することができる。これを基にすれば、新規就農者や新規参入法人へのノウハウの継承も今よりもはるかに容易に行える。そして、生産性の向上や品質改善が図られ、さらには、そこから新しい農業スタイル/ビジネスが確立されるかもしれない。こう考えると、農業のIT化に大きな期待が寄せられるのもうなずける。

農業におけるIT活用の現状

 農業を業態という広い枠で捉えれば確かにIT化の波はきている。では、農家を営む人々、“個”に目を向けてみたらどうだろうか。すんなりとITを受け入れ、それを活用することができるのだろうか。少々バカにしているように聞こえるかもしれないが、現実に高齢化が進んでいるのだ。今から新しいものを覚えてもらい、長年行ってきたプロセス(一連の農作業など)の中に、新たな仕組みを組み入れるのは難しいのではないだろうか。

 少し古いものだが、農林水産省が調べた「農林漁家におけるパソコン等の利用状況調査結果(平成17年度)」というデータがある。興味深い情報なのでその一部を紹介したい。


 この中に農業経営におけるIT機器の利用状況についての調査結果が記されている。これによると、農業経営にPC、携帯電話などのIT機器を利用して経営に役立てている農家は24.1%となっている。IT機器別では、PCを利用して経営に役立てている農家は20.7%、携帯電話(インターネット対応型)を利用している農家は7.9%、その他IT機器(固定電話(インターネット対応型)、情報携帯端末を含む)を利用している農家は2.9%となっている。

農業経営におけるIT機器の利用状況
農業経営におけるIT機器の利用状況。「いずれかのIT機器」とは、「農業経営にPC、携帯電話(インターネット対応型)、固定電話(インターネット対応型)、携帯情報端末、その他IT機器のいずれかを利用している」と回答した農家の割合である(※出典:農林水産省、2006年3月8日公表)

 さらに、農業経営におけるPCおよびその他のIT機器の利用目的について見てみると、販売・経営管理(簿記、青色申告、顧客管理)、生産管理(作業日誌、収穫状況の把握)、市況・気象などの情報収集が主である。

農業経営におけるPCの利用目的農業経営におけるその他IT機器の利用目的 (左)農業経営におけるPCの利用目的。「農業経営にパソコンを利用している」と回答した農家(421戸)に対する割合である/(右)農業経営におけるその他IT機器の利用目的。「農業経営に携帯電話(インターネット対応型)、固定電話(インターネット対応型)、携帯情報端末、その他IT機器を利用している」と回答した農家(192戸)に対する割合である(※出典:農林水産省、2006年3月8日公表)

 面白いのが、農業経営にIT機器を利用することによるメリットについての調べだ。情報収集や経営の効率化にメリットがあるとする回答の一方で、20%弱が「特にメリットを感じていない」と回答している。

農業経営にIT機器を利用したことによるメリット
農業経営にIT機器を利用したことによるメリット。「農業経営にいずれかのIT機器を利用している」と回答した農家(490戸)に対する割合である(※出典:農林水産省、2006年3月8日公表)

 続いて、農業経営にIT機器を利用しない理由のうち、“IT機器を保有している、または利用できる場所があるが、利用していない理由”について見てみよう。結果は「経営において必要性がない・興味がない」が43.1%となっており、次いで「操作が難しそうである・面倒そうである」が22.6%となっている。これをどう捉えるべきか。

農業経営にIT機器を利用しない理由
農業経営にIT機器を利用しない理由。「農業経営にいずれのIT機器も利用していない」と回答した農家(1547戸)に対する割合である(※出典:農林水産省、2006年3月8日公表)

 販売店・直売場での売上管理や、市場での品質・流通管理などで利用されるシステムなども存在するが、個々の農家単位で考えると前述の結果の通り、経営にPCや携帯電話を含むIT機器を活用しているケースは少ないといえる。仮に活用している場合でも、先進的な取り組みをしている農家はごく一部であり、その主な使用目的はインターネットによる情報収集で、それ以上のことで有効的にIT機器を利用しているケースは少ないといってよいだろう。

 そして、もう1つ、IT活用に対する意識だけでなく、“コスト”についても厳しい面があるように思う。

 現段階で、個人経営の農家に対し、ITへの投資を強いることは難しいのではないだろうか。何らかのITを活用した仕組みが構築されたとして、そのサービスの利用料や必要な機材の購入費・メンテナンス費などを捻出できるのだろうか。今後、国が農業振興の観点からIT投資への補助金制度の実施などを積極的に行うかもしれないが、先に挙げたIT利用の現状(調査結果)からもコストを掛けて積極的にITを導入する農家は少ないように思う。

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